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【  2012年09月  】 

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第4章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.01 (Sat)

 その晩も、澪はチャットに向かった。「ハイ、かず」「やぁ、元気にしてる?」「ふふ」たわいない会話が、過ぎてゆく。・・・そこに、突然割り込みが入った。「俺の、関東20の部屋に来てくれよ、美玖」強引な男だ、と澪は思った。美玖と言うのは、もちろん澪の源氏名だ。「いいわよ」澪は、すぐに退屈なかずをうっちゃって、関東20に向かった。「ハイ、奨さん」「奨でいい」「簡単ね」「・・・簡単なのは、あんただろ、美玖」「...全文を読む

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第5章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.02 (Sun)

 白と黒でデザインされたマンションに、帰り着いた澪は、1錠減った白い錠剤を、懐かしく思いながら、洗面台で残りのデパスを飲んだ。・・・それから、歯を磨くと、アベンヌの石鹸で、軽い日焼け止めを落として、薬用の化粧水をぱしゃぱしゃとつけた。澪は、化粧を滅多にしない。すぐ下目蓋に滲むマスカラも、ハンカチに染みの付くファンデーションもあまり好まない。・・・いつも、薄い櫻色の日焼け止めをつけて、唇にグロスを塗る...全文を読む

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第6章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.03 (Mon)

 次の日、折悪しく父が来た。父は、挨拶と言うものをしない。・・・人に対する、気遣いと言うものをしない。「このクッションは、少し紅過ぎて派手だな」そう、文句を言いながら、父は澪の好きなソファにどっかりと座った。ふん、大きなお世話。「これが、今月の生活費だ。足りなければ、言うように」ああ、そお。「澪、この珈琲は苦すぎるし、私は、クリームが苦手なんだよ」「・・・すぐ、そこの評判の店で買って来たのだけれど?...全文を読む

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第7章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.04 (Tue)

 澪が気がつくと、7~8人の制服の人間が、広いLDに陣取っていた。「私・・・」「何を、飲みました?」「デパス3mg」澪は即座に答えた。救急隊員らしき男が、血圧を測った。「大丈夫ですが、誰か御親戚を呼びます」「いやです」「いや、と言われても」警察官は単純に言った。「お身内を、呼びますよ。誰かいないんですか?」ふ、警察のお世話になるのは2度目だわ。「すぐ、近くのマンションに父が・・・でも、いやです」「何...全文を読む

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第8章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.05 (Wed)

 次の朝。父親は、意外と早く起きていた。「澪、喫茶店にでも行くか」澪は、ジーンズに黒いヒートテックに、グレイのモヘアのセーターを被って、青いフェイクのムートンを着た。父親は、らくだ色のダウンで、玄関で不器用に靴を履いた。二人は、黙って一番近い、オープンカフェに向かった。「私、ピザトーストセット」「私は」父親は一拍置いて言った。「小さなコーヒーと、フォンダンショコラと言う奴を」店員は言った。「エスプレ...全文を読む

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第9章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.06 (Thu)

 二日目。澪が、例によって昼近く起きると、もう父親はいなかった。・・・代わりに、短い書置きがあった。「4時に、私のマンションで宅急便を受け取る。遅くなる」ま、いっか。澪は、冷凍してあったフランスパンをトーストしながら、レタスをちぎって、胡瓜を切り、プチトマトを添えた。ベーコンを炒めて、フライパンから取り出して、今度は卵をチーズとスクランブルし、コーヒーを淹れた。トーストを齧り終わると、澪はいつものよ...全文を読む

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第10章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.07 (Fri)

 3日目。澪は、いつになく早く目が覚めた。・・・パジャマにガウンを引っ掛けてリビングに出ると、父親は、寒そうに暖房を全開にしていた。「あのね。ここは、床暖房があるから、25度にエアコンをつけなくっても大丈夫よ」「教えてくれなきゃ、分からん」父親はぶつぶつ言った。「澪、だらしない格好をしていないで、顔を洗って着替えなさい」澪は、黙って洗面台で顔を洗って、すっかり隈の出来た顔を見た。(もう、全然「休憩」...全文を読む

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第11章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.08 (Sat)

 「澪」「・・・いやよ」「お前は、すぐ怒る。・・・そうすると、わしはどうしていいのか分からなくなる」澪は、黙って起き上がって、ドアを開けた。「・・・ケーキが、食べたい」澪は子どものように言った。「ケーキだな」父親は言った。「この辺に、店はあるかね?」「コンビニのでいいのよ」「わしは、好かん」父親は言った。「確か、薬屋の横に小さな惣菜屋を兼ねた店があったな。・・・ちょっと、行ってくるよ」父親は、鍵を開...全文を読む

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出会い

にがくてあまい午後

2012.09.09 (Sun)

 暑い、夏であった。あたしは、ふつーに就労支援所で働いてるふつーの障害者だ。ふつー、でもないかも知んないのは、毎日真面目にやってないとこと、だけど毎日真面目に小説を書いてるとこだ。けいちゃんは、そこの指導員だ。一年前に、けいちゃんは実習に来てたはずだ。・・・でも、あたしはその当時、付き合ってる彼氏がいてけいちゃんのことはよく覚えてない。覚えてるのは、当時髪が長かった、けいちゃんらしき人が、「男にメー...全文を読む

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第12章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.09 (Sun)

 その年は、何事もなく明けた。若く見えるドクターは、澪と父親との同居に大いに賛成、した。・・・新年の2日には、弟夫妻が、珍しく時間に遅れずに、マンションにやってきて、落ち着いた澪を見て、驚きながらお節を食べて帰って行った。9日に、澪は近くのベローチェで、グループホーム時代の親友の蓉子と会っていた。「それで?」「私は11時に起きるし、1時に寝る。・・・父は6時に起きて、9時には自分のマンションに帰るし...全文を読む

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試練

にがくてあまい午後

2012.09.10 (Mon)

 けいちゃんがいない就労支援所は、試練の場だった。ちょうど、TVではうるさいくらいロンドン五輪を放映してた。頑張れニッポン。元気になりました。あたしは、けいちゃんが休んだ次の次の日、なんとなく殺気立ってるスタッフの前で、うっかりビール代わりのパインジュースを片手に、「シューローシューロー、イエィ」と言った。たちまち弾丸は返ってきた。「あのね。・・・体の調子が悪かったり、お金があって働かない人のことを、...全文を読む

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第13章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.10 (Mon)

 その、新年初の、小説講座での事だった。少し、電車に乗り遅れた澪は、グレーのボーダーのTシャツの上に、英国旗のプリントされた丈の短めのトレーナーとGパンを着て、これまた短い黒いダウンジャケットで、池袋の交差点で地団太を踏みながら信号待ちをしていた。と、後ろから肩を叩く人がいた。(誰?)澪が、少しむっとして振り向くと、そこには菱沼先生が、居た。「こんばんは」「こんばんは。・・・私も、少し遅れてね」信号...全文を読む

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第14章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.11 (Tue)

 次の日曜日、澪は神田に出掛けた。思ったより、大きくまたきちんと整頓された古本屋まで、何とか辿りつくと、伊藤が店番をしていた。「こんにちわ」「こんにちわ」伊藤はそういうと、礼儀正しく会釈をした。「何か、コーヒーでも買って来ましょうか?」「いえ、さっき和ラテの缶を買ったので」「そうですか」伊藤は、すぐ前のPCに向かうと、自分の作品を早速プリントアウトした。「どうです?」「面白かったです。・・・もうブロ...全文を読む

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失敗

にがくてあまい午後

2012.09.12 (Wed)

 次の日、少し元気が出たあたしは、けいちゃんに残暑見舞いを書いた。「一人で頑張って疲れてるような気がします。お元気で。お盆明けにまたお会いしたいです」朝九時の郵便局で、絵手紙に五十円切手を貼ると、あたしは外に出た。・・・日差しは強かったけど、もう殺人的な暑さではなかった。自転車をぐるっとまわして、アスファルトを走って就労支援所についた。しかし、ことは思ったほど簡単じゃなかった。朝の打ち合わせが終わっ...全文を読む

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第15章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.12 (Wed)

 「それで?」聡子はオープンカフェで、カフェラテから目をあげて尋ねた。「おかしいでしょ。・・・その臙脂色のカシミヤのおじさん、SFの批評に、『どうして犬をワープ旅行に連れてゆくんですか?』だって」「おかしくないわよ」聡子ははっきりした発音で言った。「家の、旦那だってそうよ。理系の出来る男って、10年20年かかって、芸術に関しては頭がひからびてゆくのよ」「ふうん」「だけど、あんたも馬鹿ねぇ」「え?」「...全文を読む

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第16章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.13 (Thu)

 すっかり、やる気になった澪が、PCに向かってワードを開くと、けたたましく家電が鳴った。(誰かなぁ・・・)三分の一うんざり、三分の一あきらめ、三分の一いらいらした気持ちで、澪が受話器を取ると、聡子の声がした。「なぁに?」「実はね・・・」聡子は囁くような声で言った。「さっき、人が大勢いるところでは言いにくかったんだけど」「ええ」「家の子、実は呼び出されてるのよ」「非行?」「違うわ」聡子はきっぱり言った...全文を読む

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怒り

にがくてあまい午後

2012.09.14 (Fri)

 だけど、ことは思ったようには運ばなかった。土曜日、けいちゃんに寄せ書き書いてよ、とあたしは思い切って一番仲のいい小池に頼んだ。だけど、小池は言った。「まだ少し早いんじゃん。・・・ほっといた方がいい気もする。どうしてもっていうなら、お盆明けでもいいじゃん」「ん・・・」「敦美ちゃん、近藤さんのこと好きなの?」「え?」「・・・あの人さ、スタッフだけど鬱っぽいみたいだよ、前から」「そうなの?」「やめときや...全文を読む

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第17章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.14 (Fri)

 澪が、気がつくと時計は8時を回っていた。・・・寝室の、曇った防犯ガラスは露でしめっている。澪は、ガラスに指を這わせながら思った。「トイレの疫病神」それが、グループホーム時代の澪についたあだ名だった。澪は、病院から即、ホームに移ったにしては、仕事は出来る方だった。・・・若く見える新ドクターのせいで、減薬がスムーズに進んだせいもあり、調理実習にしろ、掃除にしろ、裁縫にしろ目に止まらぬスピードで上達して...全文を読む

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相手ありき

にがくてあまい午後

2012.09.15 (Sat)

 次の日は、あたしは遅く目を覚ました。・・・TVでは、ロンドン五輪の閉会式をやってた。寝坊したから、大好きなブライアン・メイもケイト・ブッシュも見られなかった。よぼよぼになったロジャー・ダルトリーが最後に歌ってるだけだった。最悪だ。あたしは落ち込んだ気分のままで、東京事変を聞きながら、もう一度けいちゃんのフェイスブックを無意識に開いていた。「言語・日本語、韓国語、英語」・・・どうにも気になる一節だ。...全文を読む

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第18章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.15 (Sat)

 その晩、澪は寝室で、原稿用紙の升目を、ていねいに青い万年筆で埋めて行った。(誰に、笑われても構わない・・・これは、私とあの子の、想い出)初の、童話の下書きは、面白いようにするすると進んだ。原稿用紙7枚を、一気呵成に書きあげた澪は、気がつかない内に微笑みながら眠り込んでいた。次の朝。澪が、目を覚ますと、杏子さんが横に居た。「どうし・・・たの?」「ごめんなさいね」杏子さんは謝った。「この、散らばってい...全文を読む

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第19章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.16 (Sun)

 大地震の到来から、1ヶ月が過ぎた。街は薄暗く、澪の好きだったデパートは閑散としていた。・・・澪は、駅の動かないエスカレーターを見捨てて、階段を息を切らせながらホームへと昇った。その日は、詩会のサークルの日だった。終礼と共に、近くのカフェで、仲間と、ラム酒とホイップクリームのかかったシフォンケーキと紅茶を頂くのが、サークルの恒例になっていたが・・・。中で、詩の朗読会を、唯一昔から主催していると言う経...全文を読む

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自分の日常

にがくてあまい午後

2012.09.17 (Mon)

 その週の後半は、ゆるゆると過ぎた。・・・あたしは、一人ぼっちの部屋で、けいちゃんの心境を想像するのに疲れ果てて、自助グループのお茶会に出ることにした。土曜日の朝は、湿っぽい空気が漂ってた。あたしは、ロッカーの鍵を開けて部屋のドアを開けて、いつものように資料を机の上に並べた。誰も来ない部屋はひんやりしてた。だけど、書記のノートが見つからない。間もなく、仲のいい高ちゃんがやってきた。「おはよう。・・・...全文を読む

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第20章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.17 (Mon)

 GWの初日は、日差しは強いが風も強い日だった。夕刻、駅ビルの正面口で、青い小花柄のワンピースに、シャーベットブルーのトレンチコートをはおった澪は、約束より5分前に、こちらに向かってくる卓也の姿を見つけた。「こんばんは」「こんばんは・・・。お久しぶり」卓也は、相変わらずひょろっと背が高かったが、少し老けたように見えた。「何、食べようか?」「串カツの美味しい店があるの」二人は、並んで「新鴇」ののれんを...全文を読む

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第21章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.18 (Tue)

 それから、卓也と澪は頻繁にメールをするようになった。4度目に卓也に会ったのは、寒い梅雨の日だった。・・・駅に降り立った卓也は、少しふらついているようだった。「大丈夫?」「この間の、検査ね・・・。やっぱり、ちょっと被爆してるみたいだ」(少しでは、ないかも知れない)と、思いながら澪はバッグの中を探した。「これ」「何?」「・・・近くの神社で買った、お守り。無宗教だって言ってたから、嫌いかと思ったけれど」...全文を読む

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グッド・バイ

にがくてあまい午後

2012.09.19 (Wed)

 鬼束ちひろ。・・・あたしは、よくは知らないけど、奔放な言動が話題になってる人だ。けいちゃんは、ああいう万年青春した、つまりあたしの音信不通の母親みたいな人が好きなんだろうか。あたしは、ちょっと母親の面影を思い出しただけで、ぞっとした。・・・ああいう風にだけはなりたくないと思って生きてきたのに。しかし、すぐ週明けつまりお盆明けに、いよいよショックなことが待っていた。けいちゃんは出てきてなかった。そし...全文を読む

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第22章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.19 (Wed)

 次の朝、頭痛でガンガンする体を抱えながら、澪は、郵便受けを開けた。・・・S文学館からだった。「残念ながら、不採用です」澪は、落ち込んだ気持ちを誤魔化そうと、洗面台でマシェリのムース型ワックスで、髪を整え直した。ヘアコロンを吹きかけると、少し気分がリフレッシュした。(不採用、か・・・)M出版社。(豆本、はどうだろう・・・)絵本の、自費出版には並々ならぬ金がかかる。・・・でも、豆本なら資金は抑えられる...全文を読む

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第23章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.20 (Thu)

 自室に戻った澪は、自分でも気がつかない内に、卓也のダイヤルをプッシュしていた。話を聞いた、卓也は一言の元に言った。「詐欺だね」「そう、思うわ」「断れよ」「・・・そうも、いかない」「何故?」「杏子さんが、期待してるわ」「24時間TVシンドロームだね」卓也は言った。「何それ?」「ハンディのある人間を応援したい。・・・真人間にしたい。そういう衝動の事さ」「杏子さんを、侮辱しないで」澪は珍しく声を荒げた。...全文を読む

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恋しい

にがくてあまい午後

2012.09.21 (Fri)

 あたしは、土曜日いつものように自助グループに出ていた。高ちゃんにまた書記を頼まれて、就労支援所のスタッフがパリへ行って買ってきたというお土産のボールペンで、ノートに会計収支をつけた。暇なので、ボールペンのボディに浮かんでる飛行機を見つめていたら、前に何度か食事したことのある、芹田が遅れて来た。・・・あたしが、最後にむかっ腹立てて、「ブランド物着たくず」って言ってそれっきり別れたやつだ。だけど、芹田...全文を読む

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第24章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.21 (Fri)

 若くて、いがぐり頭の医師は、親切な様子で、澪の気管を診た後言った。「咳喘息ですね」「え・・・?」「あなた、20年間病院暮らしをしていたと仰った」「ええ・・・」「体がね」いがぐり頭の、医師は続けた。「弱っているんですよ。そこに、ここ4年ほど無茶をしたでしょう?」「はい」「今は」医師は言った。「単剤処方に近い線で済んでいる。・・・しかし、20年間、1日40タブレット近くメジャートランキライザーを飲まさ...全文を読む

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第25章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.22 (Sat)

 翌朝、澪は一通のメールを受け取った。「試験でこちらに来ています 卓也」果たして、今日は忘れていた日曜日だった。・・・澪は、メールを返した。「会いたいの」「今日は、困るな・・・。そっちへ泊ることになっちまう」「電話したい」「全く」それでも、携帯はすぐ鳴った。「卓也・・・」「なに?」「また、ひとりになっちゃった」卓也はくくっと笑った。「君の事だから、杏子さんを追い出したんだろう」「その通りよ」澪は言っ...全文を読む

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不在

にがくてあまい午後

2012.09.23 (Sun)

 一週間たっても、けいちゃんは戻ってこなかった。あたしは、ぼんやり芹田とつきあってた頃の自分を思い出してた。・・・あたしは今よりもっと細くて、芹田は背が高くてかっこよかった。地震の時、どちらともなくメール交換するようになって、そんで付き合い始めた。芹田はデートがうまかった。いっつも、割り勘ではあったけどお洒落で高い店を選んでくれたし、あたしが泣くと、すぐに薔薇のチョーカーを買ってくれた。・・・当時、...全文を読む

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第26章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.23 (Sun)

 次の次の日、ひろみさんはやって来た。「あの、前髪・・・」「ああ、これ」ひろみさんは、白髪の目立つ前髪から、カーラーを外しながら笑った。「巻いたまんまでしたわ。道理で、電車で人がじろじろ見ると思った」ひろみさんが、作ってくれた生姜入りの豚汁と、にんにくの芽ともやしの炒め物は美味しかった。「広いねぇ」ひろみさんは、リビングを見まわして言った。「そうですか・・・?」「その割に、綺麗にしてるわ」「・・・父...全文を読む

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第27章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.24 (Mon)

 「詩の棚卸し?」卓也は電話越しに言った。「何だそれは?」「今、サークルの方は少し、お休みしてるの。会場が、経済冷房で29℃なんですもの。・・・病気になっちゃうわ」「答えになってないぞ」「過去の詩を・・・見直してるの」「それくらいは、俺にも分かる」卓也は少しいらいらした声で言った。「それで?」「・・・自分の生き方を、見直しているのよ、今」「・・・」「K先生は、いいトレーナーだと思うわ。女の生き方とし...全文を読む

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不安

にがくてあまい午後

2012.09.25 (Tue)

 次の日。あたしは、朝早く薬を飲んで、そのあとうっかりご飯ときのうの味噌汁と、温泉卵とのりとおしんこを食べた。・・・お味噌汁は、冷蔵庫に入れといたのでわるくなってる感じはしなかったけど、急に食べ終わった後、気分が悪くなって吐いた。(まずいなぁ)(薬吐いちゃった・・・明日、受診だから予備ないし)思ったとおり、一時間くらいするとものすごく不安になってきた。風のうわさに入院したらしいけいちゃんのこと。・・...全文を読む

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第28章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.25 (Tue)

 就労支援所の仕事は、単調だが楽しかった。澪の仕事は、社員食堂のメニュー作りだった。・・・親切な痩せぎすの尾登さんは、いつも残りものを澪にくれた。夕飯は大抵それで済ました。余裕がある時は、時々父親を呼んだ。その夏の暑さは、下旬のある日急に峠を越した。驚くほど涼しくなったその夏の終わりに、澪のマンションの近くにある沼の畔にあるT記念館で、「うみねこ堂」の詩の朗読会があった。記念館には冷房も暖房もないと...全文を読む

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第29章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.26 (Wed)

 岩手の画家の、虎久さんと会ったのはまだ暑い9月の終わりだった。虎久さんは、汗をふきふき1時間遅れてやってきた。・・・白髪混じりのこの人の眼鏡の奥の目は、申し訳なさそうでもあったが、どこかいたずらっぽく輝いていた。「佐藤虎久です。よろしく」「こちらこそ」「駐車場が、なかなか見つかりませんでな。いや、いや。一駅離れたところに停めて、あとは電車で来ました」「ご苦労様です」「いや、いや。・・・こちらこそ悪...全文を読む

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不平等

にがくてあまい午後

2012.09.27 (Thu)

 本が、来た。著者(なんてえらそうなもんじゃないけど)贈呈分が来たのだ。イラストも、ちゃんとネットで自分で依頼した甲斐があって我ながらかっこよく出来てた。五十部が十部ずつ、きちんと包装されてあった。あたしは嬉しくなって、一応スポンサーであるパパに電話した。「やあ」「本出来たよ・・・。まだ、書店に並ぶのは秋だけど」「よかったなぁ。けどあんまりな」「ん?」「支援所の皆に、配らないようにしなさい」「・・・...全文を読む

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第30章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.27 (Thu)

 それから、澪と虎久さんは頻繁に飲むようになった。「・・・岩手に、お帰りにならなくていいのですか?」ある日、池袋の居酒屋で澪は聞いた。「あはは。息子のところに、避難しておるのですよ。僕のような年寄りが、避難しても仕方がないのですがね」「向こうは・・・」「もう、そんなに危なくはないです。しかし、人気がないですね。特に若い人がいなくなった。・・・それと子ども」「だから、私とお話されるんですか?」「は?」...全文を読む

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第31章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.28 (Fri)

 澪は、ベッドから起き上がって言った。「ごめんなさい。うまく行かなくて」虎久さんは笑った。「あはは。いいんですよ。・・・あなたの体が、まだ固いんですな」澪は赤くなった。「こういう事は、徐々にね」「はい」「・・・どうか、しましたか?」「ある、小説の事を思い出していて」「?」「ある女性が、ある男に乱暴されて、子供が生めなくなります」「・・・」「そして、それを隠してアメリカ人と結婚しますが、離婚に至ります...全文を読む

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大事なこと

にがくてあまい午後

2012.09.29 (Sat)

 けいちゃんは、就労支援所を辞めた。所長さんが、九月の初めのミーティングではっきり言った。「近藤君は、体調不良で入院している。八月末を以て退職されました」支援所の店からは、あたしが作ったパッチワークのりんごが一つだけ売れていた。・・・おそらくは、けいちゃんが最後に買ったのだ。あたしはがっかりして、パパに鮭を焼いたけどもう元気がなくって寝転んでいた。パパは、七時過ぎに心配そうに部屋をノックした。「だい...全文を読む

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第32章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.29 (Sat)

 コートを前開きではおった澪が、池袋の路上を歩いていると、卓也が意外としっかりした足取りで追い付いて来た。「待てよ」「離して」「いやだ」卓也は、めずらしく強引な調子で澪の手を取った。「だから・・・」「だから?何?」卓也は、酔っているにしてははっきりした語調で言った。「君は、何でもひとりで決めてしまう。ひとりで決めて、ひとりで彷徨って、ひとりで結論を出して幸せになろうとしてる」「・・・」「そんな生き方...全文を読む

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第33章

水面の鳥ーBLUEBIRD-

2012.09.30 (Sun)

 大晦日、澪は駅前のデニーズで卓也を待っていた。ひょろりとした姿が、自動ドアの向こうに見えるとすっとガラスは左右に開いた。「お待たせ」「いいえ」メニューを開きかけた卓也を、澪は制した。「家に、天ぷら蕎麦用意してあるの。だから、あまり食べないでね」卓也は、タピオカティーを頼むと、ほとんど一気に飲み干して、滑るように立ち上がり、澪と自分の勘定を払った。外は、冷気が冷たかった。澪が何とはなしに、そっと卓也...全文を読む

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