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籠の鳥ーJAILBIRD-

第一章

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亜美は、目を覚ました。

少し、汗の匂いのする、何日も取り替えられていないシーツ。ふかふかの枕。何年も前に買った、紺と青のベッドカバー。うすい染みのついた白い木のベッド。

部屋は、年代物だが、それなりに値の張った家具で、きちんと埋められている。大きめのブラウンの書斎机、お揃いのガラス窓のついたこげ茶色の本棚、同じく茶色の、大ぶりの木製のライトスタンド。

窓からは、隣の柿の木がよく見える。ここ15年間、繰り返し繰り返し見てきた朝の風景だ。

亜美は、背を伸ばすと、瞬きをした。・・・今日の、母親の作り置きの食事はなんだろうか。昨日の夜は、自分は風呂に入っただろうか。確か、入った筈だ。・・・それから、着替えをしただろうか。

広い、作りつけのクローゼットには、沢山高価な外出着が詰まっているが、着替えと言っても、亜美は4色のフリースしか、普段着は持っていない。それらは、3年前、渋る父親が、デスクトップのPCを買ってくれてから、ネットでこっそり買う事を覚えたのだ。ユニクロの、水色とピンクとアイボリーと黒のフリース。

それを、母親に洗濯してもらって、毎日別の色に着替えるのが、亜美の唯一の「お洒落」だった。


少し、毛羽立ったアイボリーのフリースを、頭から被り、階下に降りると、母親の甘ったるい、それでいてどことなく毒を含んだ声がした。

「亜美ちゃん、今日はクリニックの日よ。・・・お父さんがTAXYを呼ぶわ。お急ぎなさい」

ああ、またお金がかかる。体も心も弱い、この子のためにお金がかかる。・・・私の贅沢着がもっと欲しいのに。私の老後だって、どうなるの。・・・この子のために・・・この子のために・・・

早く、さっさと電車にでも飛び込んでくれないかしら。

亜美は、黙って、焦げたトーストを苺ジャムと、ティーバッグで入れた紅茶でのどに押し込んだ。


父親は、いつもTAXYの助手席に乗る。亜美は、いつも後席に乗る。

TAXYの運転手は、亜美が触れる、数少ない、それでいて亜美に好意を持っている男性の他人のうちの一人だった。

「全く、こう暑くちゃねぇ。体も参りますねぇ。・・・お嬢さん、いつも綺麗にしてらっしゃいますね」

それはそうだろう。体裁を気にする父親が、じっくり時間をかけて、デパートの最上階のセールで選んだ、亜美の「お嬢さん高校」時代の同窓会の連中も驚く、とっておきのオンワードの外出着なのだから。


クリニックに到着すると、冷房のひんやりした空気がした。いつも見る、木崎が、2Fへ通じる、階段の掃除をしていた。

木崎は、背が高く、彫りの深すぎる顔立ちで、目が不釣り合いにとんぼのように大きかった。彼は、いつものように亜美をちらっと見ると、また掃除に励んだ。

亜美は、いつも不思議に思っていた。何故、この人はこんなに一生懸命「階段の掃除」をするのだろう。・・・亜美の母親は、階段の掃除をしなかった。家では、それは家政婦さんの仕事だった。とは言え、家政婦さんもまた、正月以外は滅多に塵取りと箒を持たなかった。持ったとしても、いつも気だるげにそれを動かしていた。

「カイダンノソウジ」をする木崎の後ろ姿を、この5年間、そうしてきたように、少々失礼なほど(と、亜美には感じられた)見た後、亜美は1Fの待合室の扉を開けた。

小奇麗な白い待合室には、円筒形の水槽に熱帯魚が泳いでいる。茶と黄色いソファが、病人のためにちんまりと用意されている。この雰囲気が、亜美は嫌いではなかった。

父親の横に座ると、亜美はマガジンラックにある「CLASSY」を広げた。その雑誌が、本当は亜美はあまり好きではなかった。しかし、待合室は、「CLASSY」から抜け出て来たような、コーチのバッグを抱えた、ハイヒールを履いた患者で、一杯だった。そして、亜美もまたその一人だった。

亜美は、ため息をついて、院長こと「どくとるマンボウ」(これは、亜美が夜向かうネットで、院長に勝手につけたあだ名だった)の、順番を大人しく待った。

「CLASSY」の中では、亜美と同じような格好をしたキャリアウーマンが、オフィスラブについて語っていた。それは、亜美には理解できない単語で、埋め尽くされていた。

亜美は、知恵遅れではない。しかし、15年間も家にいると、自然とすり減ってゆく、それは唯一の世間の情報源だった。小遣いはたっぷり貰っている。しかし、使い道と言うものが分からないのだ。たまに、父親と帰りに寄るデパートの1Fで、贅沢な化粧水を買う以外は、亜美は小遣いは全部貯金に回していた。

2時間待った後、順番が呼び出された。 
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