にがくてあまい午後

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籠の鳥ーJAILBIRD-

第十章


亜美が、木崎のいるデイケアを訪れたのは、その3日後の事だった。デイケアは、クリニックの3Fにあった。

「お入り、嵯峨さん」

木崎は、妙に無表情な笑顔で、亜美を出迎えた。亜美は、きょろきょろと、デイケアの一室を見回した。

清潔に磨かれた椅子とテーブル。コーヒーメーカーの匂い。大きなTV。数人の、疲れた感じの中年の人が、静かに会話しながらウノをしている。・・・なんとなく、場違いだ、自分は、と亜美は思った。唯一、こちらを見てほほ笑んでくれた、初老の看護師らしい女性の存在が、亜美を安心させた。

「私、嵯峨亜美と言います。よろしくお願いします」

亜美の挨拶にも関わらず、中年の人達は、ちらりと笑ったような視線を、亜美に投げかけただけで、ウノに打ち込んでいた。

「ここは、ちょっと話しにくいね。嵯峨さん、ちょっと廊下へ」

狭い廊下の、グレイの椅子に腰かけると、木崎は煙草を取り出した。大きく吸うと、背伸びをした。

この人には、お父さんの香りがする、と、直感的に亜美は思った。実の父親に、そのような感情を抱いたことがない。亜美の父親は、煙草を吸わない。酒も一切飲まない。時々、カラオケスナックに行くだけだ。

一度、父の常連のカラオケスナックの小母さんと、外科で出会った事がある。その人は、亜美が禁止されている、紫色のあまり品のないバッグに、大ぶりの花柄のブラウスを着ていた。・・・父親は、亜美が今まで見たことのない表情で、うちとけてその人と世間話をしていた。

「それで、嵯峨さん」

亜美は、集中力を木崎に戻した。木崎は、くたびれた、しかし清潔感のあるシャツに、これまた洗いざらしのGパンをはいていた。

「ここは、安全な空間です。規則は、毎日同じ時間に、皆でお弁当を食べること。一日の費用は580円。コーヒーとココアは、好きな時飲んで構いません」

「はい」

「遅れるようなら、電話を一本入れること。休む日も同じ」

「はい」

「月曜日と、火曜日と、木曜日はトランプかウノかゲーム。水曜日はDVD鑑賞。金曜日は、散策をします。・・・目的は、協調性を持つこと。毎日外に出ることに、慣れること」

「はい」

「君は、扱いにくそうだ」

そういうと、木崎はまた背伸びをした。亜美は、他人に対して、初めて腹が立った。・・・しかし、この感情を、どう表現したらいいのか分からない。

「私、ここはシェルターのつもりで来ました」

「シェルター?」

木崎は、煙草の灰を落とすと、亜美の顔をまじまじと覗き込んだ。

「嵯峨さん・・・いや、亜美さんでいいかな」

「はい」

「それは、どういう意味ですか?」

「私、先日ヤクザの人と食事しました」

「・・・・・・」

「で、そのあと・・・。ネットでDVという言葉を知り・・・勘だけで、『アダルトチルドレンと家族』という本を、注文して読みました。」

「呆れたな、君には。有名な本だ。・・・で・・・?」

「ネットで、DVになるって警告されたんです。その、男性とは・・・」

「うん」

「でも、私には、今、隠れるところがないんです」

「・・・ここは、安全な場所だ」

木崎は繰り返した。「よければ、毎日、いらっしゃい」
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