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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第1章

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澪は、頭がガンガンした。

「それでさ、家の親父がさ・・・」

目の前の、太った男が、楽しそうにビールを空けながら、父親の自慢話をしている。皆も、一見楽しそうに祝杯をあげている。

「伊藤芳樹君、『空想旅のそら小説賞』受賞乾杯」

「乾杯」

ゆすったお腹が目の前に突き出ている。

「僕、今度、筋トレをはじめまして」

「あら、いいじゃないの」

「家の親父、若い頃すごく筋肉ついてて、格好よくて・・・それで、俺も」

四十過ぎた男が、片田舎の文芸賞をやっと取って、一番に話しだす事が、「家の親父の若い頃はさ」ですか。・・・それがまた、神田の小さな模型屋のおやじの、思い出話と来ているから、流石に笑いたくても笑えない。

この男との、最初の会話が、「僕、実物大のガンプラ、静岡に本当に見に行ったんですよ」であった事を、澪は生涯忘れないであろうと思った。

「乾杯」

「伊藤君、乾杯」

ちぐはぐな格好の、30代を中心にした、女性の取り巻きが既に出来ている。どうして、あそこまで流行を無視した格好が出来るのか、澪には見当もつかない。・・・もっとも、これは男性陣も同じである。いい年こいて、天野喜孝Tシャツ着るな、つの。

一人だけ。

澪の目を引く人物がいた。

その人は。

澄んだ目をした、鼻の横にほくろのある女性で、目立たないが洗練された格好に、そぐわない大きなキャリーバッグを下げて、この胡散臭いパーティー会場に入って来た。

(五代明希だわ)

澪にも、他の客にもすぐに分かった。

「はじめまして」

彼女は、はっきりした発音で言った。他の客も、慌てて言った。「はじめまして」

(すごい。・・・本来、主賓である筈の女性が、どうやったらああいう謙虚な挨拶が出来るんだろう)

澪が、考える間もなく、彼女の姿は、まるで地上から1cm上を滑るように、会場の奥へ行く。・・・まだ、浮かれていた伊藤芳樹が、ようやく気がついて、慌てて挨拶をした。

「五代先生、はじめまして」

「おめでとうございます、伊藤さん」

五代明希は、何の衒いも無く、伊藤に笑顔を向けた。

「ムービー撮っても、いいでしょうか」

澪は、内心顔をしかめた。この、最新機器がどうしても好きになれないのだ。・・・しかし、五代明希は普通に微笑して言った。「どうぞ」

他の客も、携帯のシャッターをカチカチと押している。あんたら、季節外れの蛍狩りにでもきたつもり。

などと、考えながら澪はこの女性の、英国のマナーハウスの主のような風情に魅かれていた。

「あなた、はじめまして」

「こちらこそ、光栄です」

しまった、かえって生意気だったかしらと思いながら、澪はこの女性に挨拶を返した。気がつくと、五代明希は澪の射るような視線を、訝しげに、しかし興味深そうに見つめていた。

「あなたは、菱沼先生のところの・・・」

「そうです、受講生です」

澪は、負けず劣らずはっきりした発音で言った。「何を、勉強してらっしゃるの?」

「ええ。アメリカの小説の、19世紀から20世紀の歴史を」

「そう」驚いたように、五代明希は言った。

菱沼先生が、和服のまま、片手にバイキングの皿を持って近づいて来た。

「こんばんわ」

「こんばんわ」

「先生が、一番粋な服装ですのね」

他の、客も近づいて来た。

「この先生に、何を習ってるの?」

「・・・難しい、お話を」

「ああ、そう」客は、気が抜けたように言った。

澪は、気を取り直して言った。「先生、お招きありがとうございます。私、新米なのに」

「いや・・・」

「先生」伊藤が、近づいて来た。「そろそろ、お開きに」

時刻は10時を回っていた。



11時を過ぎてマンションにつくと、澪は一人で玄関の2足のスリッパに「ただいま」と言った。・・・この1ヶ月間、そうしてきたように。

母は、3年前から別居している。祖母は、その1ヶ月後、後を追うように亡くなった。父が、「家を売ろう」と言いだしたのは、3ヶ月前の事だ。

澪には、もう身内はいない。

親切な、父についている介護ヘルパーさんが、時折手伝いに来る他は、全く持って気儘な生活をしている。・・・ただ一人の弟は、高円寺の小さなアパートで、子どものいない暮らしを奥さんと8年前からしている。

カーテンを開けると、隣のマンションの灯が見えた。澪は、五代明希のサインの入った、最新のコミック本を部屋の隅の本棚にしまうと、ベッドに身を投げた。

都会の夜は、まだ明るい。

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