にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第3章

次の朝、アルコールの空中の飛沫で痛くなった頭を抱えて、澪は近くのスタバで、高校時代の親友の聡子と会っていた。

「これ、返すわ」

少し遅れた澪を、待っていた聡子は、クレームブリュレコーヒーを飲みながら、いきなり澪の「お土産」の、五代明希のサイン本を突っ返した。

「え・・・?」

「要らないの。・・・これは、もらっとくわ」

もらっとく?

聡子は、(つまらない)と言う顔をしながら、澪の行きつけの店で、特注したピンクと黒のパワーストーンを手首に嬉しそうに巻いた。

「私ね」

「え?」

「今度、パートに出るのよ。・・・マンション、もう、嫌なのよね」

ああ、そお。

「娘さんは、どうしてるの?」

「それがねぇ」聡子は、ため息をついた。「毎月、団地暮らしの頃から、1万2千円かけて習わせてきたバレエなのに、全然ダメなのよ。・・・日本人の骨格が、全部矯正されると言うから、やったのに」

ああ、そお。

「困っちゃうわね、どうフォローしたらいいのか」

「フォロー?」

「でもね」聡子は、身を乗り出して言った。「今度、東京の塾に、あの子をやらせるの」聡子の目は、誇らしげに輝いていた。「あなたも、ずっと東京の塾に通ってたんでしょう?」

はいはい。

それですか。



マンションに帰ると、聡子が転居見舞いにくれたピンクの薔薇が、いつの間にかドライフラワーになっていた。ゴミ箱に、投げ込もうとして澪はやめた。

ドアのチャイムがぴんぽんと鳴った。

「ただいま」

ヘルパーの、杏子さんは、いつも「ただいま」と言う。

「お帰りなさい」

「あっという間に、秋になったわね」杏子さんは、手際良く食材を冷蔵庫に詰め始めた。

「ねぇ」

「何?」

「ありがとう」

杏子さんは、ふっと微笑った。「何をいまさら」

「最近、何読んでるの?」

「東野圭吾が大好きね。あと、北方謙三よ。」

ふうん。

『悪人』と言う映画を、澪も最近見た。出鱈目だ、と思った。・・・自分をレイプした男に、女が尽くせる訳がない。

でも。

「お味噌汁、作ろうか?」

「任せるわ」

鯖の塩焼きと、豆腐とほうれん草の味噌汁は、美味しかった。

「コーヒーにする?紅茶にする?」

「コーヒー」

「今度の豆は、安くてまずいわね」

少し、落ち込んだ澪が、テーブルに突っ伏して待っていると、杏子さんの携帯が鳴った。

「いやねぇ、お父さんよ」

けたたましく鳴る携帯を取って、一通り話し終えた杏子さんは言った。

「お父さん、空気が読めなくてホントにいやになる」

「どうしたの?」

「娘は元気ですか?明日、私のところ来てくれるんですか?だって。・・・すぐ近くにいるのに、『落ち込んでますよ』なんて、言えるわけないじゃない」杏子さんは、コーヒーを取り上げて言った。

「家の家族、空気読めないよね」

「いい、人達なのよ。・・・でもね」

二人は、それきり黙ってコーヒーを飲んだ。「さて、帰るわ。明日は、来ないからしっかりしてね」

「はい」

「また明後日」

「またね」

澪は、杏子さんを見送ると、ドアのチェーンをかけて、ため息をついた。・・・私は、40を過ぎて子どもなんだろうか、大人なんだろうか。

(色々あるよね)

(色々あるよ)

こんな風に、毎日の、夜が来る。

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