にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第4章

その晩も、澪はチャットに向かった。

「ハイ、かず」

「やぁ、元気にしてる?」

「ふふ」

たわいない会話が、過ぎてゆく。・・・そこに、突然割り込みが入った。

「俺の、関東20の部屋に来てくれよ、美玖」

強引な男だ、と澪は思った。美玖と言うのは、もちろん澪の源氏名だ。

「いいわよ」

澪は、すぐに退屈なかずをうっちゃって、関東20に向かった。「ハイ、奨さん」

「奨でいい」

「簡単ね」

「・・・簡単なのは、あんただろ、美玖」

「え?」

「いつも、つまんない男を漁ってるの見てたよ。・・・俺と、付き合わない?今までにない男とさ」

澪は、きつい口調で言った。「あんた、何様だか知らないけど」

「え?」奨が、聞き返す。

「こんなとこにいる男って、あんたもそうじゃない。・・・どこが、他の男と、違うの?」

「美玖さんよ、俺は人間様だから」

「あたしは、神様を探してるの。じゃね」

澪は、白けてチャットを切った。・・・奨と言う源氏名からして、気障過ぎると思った。ふざけてるわ。

しかし。

次の晩も、その男は現われた。

「美玖」

「なれなれしいわよ」

「他の男には、簡単に体を投げ出してるのに、俺のどこが気に食わないんだ」

「私、男は基本的に気に食わないの」

「ほぉ・・・」奨は呻った。

「ただし」澪は言った。「あたしの中に、入って来た人は別。その人は、その瞬間だけあたしの神様」

「くだらないね」奨は言った。「俺は、神様になんかなりたくないしな。・・・あんたとは、縁がなかったよ」

「ちょっと待って」澪は言った。

「え?」

「なんか気にいったわ。・・・アドレス、教えて」

「いいよ」

「・・・どっかの将軍みたいなアドレスね」

「俺、そういうの好きなんだよ。・・・おかしい?」

大河ドラマの見過ぎじゃないの、と澪は思ったが、そこまでは口に出さなかった。「気が向いたら、メールするわ」

「あんたのそういうとこ、好きだよ」奨はふっと嗤ったように思えた。「俺のすごいとこ、だんだん分かってくるさ。じゃ、な」

・・・くだらないメル友が一人増えた、としか、その時澪は思わなかった。



一週間、経った。

観葉植物の綺麗に映える、新しい街中の木目調のクリニックへ向かった澪に、ドクターは、大きなPCを備え付けたデスクのある大ぶりの診察室で、言った。

「そろそろ、抗不安剤を抜いてもいいんじゃないのかな」

「はい」

「君は」若く見えるドクターは言った。「何でも、自分の中にため込んでしまう。生きた感情も何もかも。・・・抗不安剤を抜くのは、その不安と対峙することですよ」

「はい」

「大丈夫かな」

「・・・出来ます」

「雄々しいね。・・・じゃ、今週から減らします。無理は、しないように」

YES。

「ありがとうございます」

澪は、深々と頭を下げると、診察室を後にした。眼鏡をかけた看護婦が、澪のスリッパを片付けた。・・・澪は、大きく深呼吸をして、近くのコーヒーショップでブラックを1杯飲んだ後、ドラッグストアで深紅のマニキュアを買って、家路に向かった。

(・・・逃げるのはきらいよ。私は、いつも戦っているのが好き。)

(負けそうになったら)

(私には、いつも、バーチャルがある。あの、居心地のいい深海が)


・・・深海にも生き物がいて、PCの青い画面の向こうで、密かに誰かを狙っている。まるで、獲物を喰らおうとするように。

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