にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第7章

澪が気がつくと、7~8人の制服の人間が、広いLDに陣取っていた。

「私・・・」

「何を、飲みました?」

「デパス3mg」

澪は即座に答えた。救急隊員らしき男が、血圧を測った。「大丈夫ですが、誰か御親戚を呼びます」

「いやです」

「いや、と言われても」警察官は単純に言った。「お身内を、呼びますよ。誰かいないんですか?」

ふ、警察のお世話になるのは2度目だわ。

「すぐ、近くのマンションに父が・・・でも、いやです」

「何故ですか?」

「私を、20年間病院に入れておいた人です」

警官は、顔を見合わせて言った。「それで・・・」

澪は、叫ぶように言った。「いい、PSWに当たって、1年間のグループホーム暮らしをして、やっと手に入れたこの自由なんです」

「これまで、頑張ってきたんでしょう?」警官は、呟くように言った。

「はい」

「貴女は、とても興奮している。・・・お父さんを、呼びますよ」

澪は、観念して待った。

20分ほどして、父親は現れた。

「家の娘が、どうも・・・」

「そういうことでなくてですね」警官は、一語一語はっきり言った。「ここに、2、3日泊って下さい。娘さんが落ち着くまで」

「しかし」

「お願いしますよ」警官も、救急隊員も父親をじっと見つめた。「お願いします」

「・・・分かりました」父親は、腰を低くして言った。

澪は、警官と救急隊員達を見送ると、ドアを閉めた。父親は、途方に暮れたように、ハンチング帽を玩んでいた。

「帰りたければ、帰れば?」

「そうはいかんよ」父親は、言った。「警察に、叱られる」

「ふぅん、警察は怖いんだ」

「当たり前だろう」父親は、声を荒げた。澪は嘲るように叫んだ。「誰も怖くないんじゃないの?いつも言ってるじゃない、俺ほど偉い男は日本にいないって」

「そこまでは言っておらん」父親は怒った。「わしはただ、小さなバラック会社を、1部上場させたといつも言っているだけだ。・・・誰もがわしを尊敬する。お前だけが、何故、嘘でもいいから馬鹿にしたような口調が止められないんだ」

「止める、ですって?」もう、薬で痛む頭の事も忘れて、澪は叫んだ。

「人を、烏のなく僻地の病院に、20年放っておいた人を、尊敬?ですって?」

「放っておいたんじゃない、入院だ。お前はおかしかった」

「おかしくもなるわ」澪も絶叫した。「あそこの病院の、洗濯機の中では猫が死んでるのよ。その死骸を片付けた後、またその洗濯機でブラジャーを洗うのよ」

「落ち着きなさい」

「あそこにずっと、入れられていたら」澪は続けた。「私は、狂いっぱなしだった。50になっても60になっても、ガス台の栓のひねり方も分からないままだった」

「澪」

「私を、人間扱いしてくれたのは、PSWの福山さんだけよ」

「また、福山病か」

「帰って」澪は、クッションを父親に投げつけた。「帰ってよ。・・・帰ってよ。で、なかったらどうするか私、分からない」

「分かった・・・」父親は、折れた。「この床で、寝ろと言うのかね?」

「・・・クローゼットに、杏子さんの昼寝用の布団があるわ」

「それを」

「勝手に敷いて、寝て下さい」澪は言い捨てると、父親をLDに残して、寝室のドアを思い切り閉めた。


次の日。

杏子さんは、いつものようにやってくると、いきなり土下座した。「私が悪かった、澪さん」

「杏子さんは、何も悪くないわ」

「昨夜の、呂律の回らない電話、誰からか気になっていたのよ」

「だから、悪くないってば」

「この子の我儘なんです」父親が、割り込んだ。

「黙っててよ!」

「澪さん」杏子さんは、冷静に言った。「警察の言う通り、2、3日お父さんに居てもらいなさい。私は、身の振り方を考えるから」

「やめて」澪は金切り声をあげた。「やめないで」

「お前は錯乱している」父親が、再び割り込んだ。「私が、いる」

「・・・」

「お医者さんに、よく相談するのよ、ね?」杏子さんは、さっさとダウンを着た。「私は、もう行くわ」

ドアはぱたんと閉まった。

最悪の3日間が始まった、と、澪はガンガンする頭で思った。

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