にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第12章

その年は、何事もなく明けた。

若く見えるドクターは、澪と父親との同居に大いに賛成、した。・・・新年の2日には、弟夫妻が、珍しく時間に遅れずに、マンションにやってきて、落ち着いた澪を見て、驚きながらお節を食べて帰って行った。

9日に、澪は近くのベローチェで、グループホーム時代の親友の蓉子と会っていた。

「それで?」

「私は11時に起きるし、1時に寝る。・・・父は6時に起きて、9時には自分のマンションに帰るし、また5時に来て11時に寝る。ほとんど、すれ違いよ」

「そおか」蓉子は、一番安いブレンドを啜りながら言った。「でも、澪ちゃん落ち着いてるよ」

「そうでもないのよ」澪はため息をついた。「こっちのマンションの方が、新築だから、父も気に入っちゃったみたいで・・・。居つく気みたい」

「リビング、広いの?」

「まぁね。・・・パーテーションで区切れるから」

「金持ちだねぇ、相変わらず」

「・・・分かんないよ」

「何が?」

「・・・苦労もあるってこと。結局、あの父と暮らすなんて」

「そんなもんだよ」

「え?」

「誰だってね」蓉子は言った。「自分の一番嫌いな、自分の一番醜いと思ってるものに、生かされているんだよ」

あ、と澪は内心で声をあげた。・・・みるみる内に、グループホームで二人だった頃の記憶が後から後から出てきた。もう、ないと思っていた生理がまた始まった時のように。

「澪?」

「・・・なんでもない」

「あたしもさ」

「え?」

「養子、欲しいよ」

「義理の・・・子ども?」

「馬鹿ねぇ」蓉子は言った。「婿のことだよ。あの、鬼くそばばあと暮らして行かなきゃね」

「そっか」

それきり、澪も黙って抹茶ラテを飲んだ。「生理、まだある?」

「もう、時々1ヶ月おきになるね」

「あたしも」

「あたしも澪も、体丈夫だから、更年期障害は平気さ」

「かも」

「だよ。そう思わなきゃ、だめだ」

「・・・子ども、生まれたってどうせ、蹴飛ばしたくなっちゃうし」

「そうそう」蓉子は、あっさり立ちあがった。「そろそろ、行くわ」

「ばいばい」

「ばいばい」

自転車に颯爽と乗り込んで、振り向きもせず蓉子は走ってゆく。その後ろ姿を、澪は満足感を持って見送った。

(分かってる)

(分かってる子だ、蓉子は)


澪が、マンションに帰りつくと、杏子さんはもう来ていた。「お帰りなさい」

「ただいま」

「杏子さん、クリスマス楽しかった?」

「ものすごく」杏子さんは、北欧風のレストランの光景を、眼前にするかのように言った。「プレゼントも頂いちゃったし、ものすごくいい想い出になったわ」

クリスマスに、澪のプレゼントした黒のベロアに、シルバーと偽パールのネックレスをかけた杏子さんは、まだまだ若かった。父親と並んだところは、本物の夫婦のようだった、と澪は思った。

「わたしもよ・・・。今日は少し疲れたから、部屋で休むわ」

「そう、なさい」

部屋のドアを閉めると、澪は思った。

(あの二人、結婚するのかしら)

(くだらないなあ)

(でも)

(生かされている)

(一番醜いと思うものによって、生かされている)

(いい、言葉だ)

・・・澪は、いつの間にかチャットを辞めていた。
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