にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第14章

次の日曜日、澪は神田に出掛けた。

思ったより、大きくまたきちんと整頓された古本屋まで、何とか辿りつくと、伊藤が店番をしていた。

「こんにちわ」

「こんにちわ」伊藤はそういうと、礼儀正しく会釈をした。「何か、コーヒーでも買って来ましょうか?」

「いえ、さっき和ラテの缶を買ったので」

「そうですか」伊藤は、すぐ前のPCに向かうと、自分の作品を早速プリントアウトした。

「どうです?」

「面白かったです。・・・もうブログ、拝見しました」

「こりゃ、参ったな」伊藤は頭を掻いた。「なんで、僕のブログ分かりましたか?」

「センセイが・・・菱沼先生が、伊藤君の『群青の轍』というブログはいいって、ぼそっと仰っていたのを思い出して」

「そうでしたそうでした」

「私・・・実は、まだテキスト形式で、原稿を送る方法がよく分からなくって」澪は素直に言った。「ここに、長編のファイルを持って来たんです。お荷物になっちゃいましたね」

「いや、いいんです。それが、僕も読みたかった」

「はい」

伊藤は、少し痩せたように見えた。「どうか、されました?」

「いえ」

「あはは・・・実は、ジョギングを始めまして」

「すごいですね」澪は、呟いた。

「この、古本屋始める時は、父と関ヶ原みたいな大喧嘩をしましたよ。・・・今も、アマゾンと言う強敵がいますからね」

「ええ」

「長いなぁ・・・」伊藤はファイルを開いて言った。「僕は、こういうのは学生時代以来だ」

「この辺は」澪はきょろきょろして言った。「馴染みのお客さんが多いんですか?」

「だんだん、そうなりましたね」

「いいですね」

「え?」

「私の住んでいる辺りでは、せいぜい挨拶をする程度です」

「都会は、どこもそうですよ」伊藤は苦笑した。「何もかも、カテゴライズされ分別されている。・・・ここも、近所のお客さんが集まる店ではなくって、趣味の同好会のようなものです」

「同好会・・・」

「そういえば」伊藤はファイルから目をあげて言った。「笹木さんの新しい短編、読みますか?」

笹木とは、同じ菱沼先生の受講生だ。・・・目立たない感じではあるが。

「いいのかな・・・」

「いいでしょ」伊藤は、またささっと2枚プリントアウトした。「皆で、切磋琢磨してるんだから」

その短編は、興味深かった。「R.チャンドラー風ですね」

「僕もそう思いました。・・・ああいう世界のダミーを書く人は多いけど、ここまで本質的に似てるのはちょっと驚きです」

「笹木さん、確かベンチャー企業に・・・」

「ええ」伊藤は頷いた。「ああいう世界は、日本の現代の最先端を行くんでしょうね」

「・・・」

「和田さんは?」

「ああ」伊藤はちょっと額に皺を寄せた。「ちょっと、シャーロッキアン的ですよね、ああいう講座にカシミヤのセーター着て来ると言うのは」

「あはは。・・・その筈です。あの方、一流企業のエンジニアを退職してここに辿りついたんだから」

「やっぱりねぇ」伊藤は言った。「僕の小説、メールで批評して下さいってお願いしたんですが・・・」

澪は、くすっと笑った。伊藤は再び頭を掻いた。

「そんな笑い方、いけませんよ。・・・僕らは外れた所にいるから書けるんです」

「・・・それは、そうですね」

「僕、ちょっとこれは一度には読めないな。・・・今度の講義の時、お返しする形でいいですか?」

「もちろん」

澪が頷くと、丁度客が一人入って来た。澪は慌てて、コートとマフラーを取り上げた。「では」

「また、お元気で」

澪が外に出ると、空気は冷たかったが日差しが暖かかった。神田の街はどことなく古本の埃で白っぽかった。

(それぞれが)

(それぞれの場所で)

(戦っているのだ・・・負わされた荷物と)

電車に乗ると、サラリーマンが携帯でつまらなそうに遊んでいた。空いた席の一つに、身を埋めて澪は思った。

(一番)

(一番、傲慢でファザコンでみっともなかったのは)

(私自身なのかも知れない)

空は、もう抜けるように青かった。

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