にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第15章

「それで?」聡子はオープンカフェで、カフェラテから目をあげて尋ねた。

「おかしいでしょ。・・・その臙脂色のカシミヤのおじさん、SFの批評に、『どうして犬をワープ旅行に連れてゆくんですか?』だって」

「おかしくないわよ」聡子ははっきりした発音で言った。「家の、旦那だってそうよ。理系の出来る男って、10年20年かかって、芸術に関しては頭がひからびてゆくのよ」

「ふうん」

「だけど、あんたも馬鹿ねぇ」

「え?」

「なんで、20年前にちゃんとした女子大に入って、そういう男捕まえなかったのよ。国立大なんかにむきになって拘ってさ。・・・今になって、奥さん付きのお爺さんと遊んでどうするのよ」

「そんな気ないわよ」澪ははっきり言った。「伊藤さんはいい友達だし」

「これだ」聡子は呻いた。「家の、娘とそっくり」

「え?」

「あの子、私と澪の中学落ちたのよ」

「で?」

「で、じゃないわよ!」聡子は声を荒げた。「折角の、付属なのに!あの子、地元の公立で全然平気なのよ」

「・・・」

「私が叱ると箸の上につまずいて、お盆落っことすし!バレエの発表会だって、あの決めのシーンでもっとゆっくり振り向きなさいって言ったのに!ああ、イライラする。・・・あれは、父親に似たのよ」

「可愛いって言ってたのになぁ」澪はジンジャーエールを啜った。

「女の子が可愛いなんて小さい時だけよ。今は、もう私の背丈追い越しそうなのよ。胸だってふくらんでくるし。・・・ほんと厭だわ」

澪は話題を変えた。「この間の、友チョコのお返しはつまらないものでごめんなさい」

「あら、いいのよ」聡子はにっこりした。「あのロベルタ・ディカメリーノのサンプルバッグでしょ。すごく気に入っちゃったわ。いつも、車の窓に置いてあるの」

「今、手作りのマフラーも編んでるんだけど・・・」

「ああ」聡子は右手を振った。「それは、写メだけで結構」

「・・・もう春近しだしね。そう」

「さて、私は行くわ」聡子は雄々しく立ち上がった。「さよなら」

「さよなら」

やれやれ。

頑張るなぁ。



澪は、くたくたになってマンションに帰りついた。今日は、父親は澪の苦手な叔父の相手をしに出掛けている。

薄い桜色の携帯をチェックすると。詩のサークル仲間の紗生からメールが一通来ていた。

「先日は、メール遅れてすみません。漫画のアシストで深夜になりました。さて、今度私の詩集が、M出版社から出ることに決まりました。3月3日です」

やったな、と澪は思った。

M出版社。

まだ無名に近いが、ネットで多くの新人の作品を、積極的に公募しているところだ。紗生は、その第1回の大賞を獲ったのだ。

澪は、炊飯器からご飯をよそい、味噌汁を鍋にかけ、豆腐とわかめを入れ、味噌を入れて一煮立ちさせて火を止めると、温泉卵器に卵をセットし、はちみつ入りの梅干しを冷蔵庫から出しながら考えた。

(今、大手の出版社はどこも硬直している)

(いつまでたっても、カビの生えた純文学を、少部数出すだけだ)

(優れたブロガーの作品も、中々出版には結びつかない)

いつか思ったこと・・・澪の、書きたいものとは?

(私が、真の独創性を初めて発揮できたもの)

(それは、菱沼先生の特訓で、書いた極短いショート・ショート)

澪はPCを検索した。あった。

「あなたの超短編小説を募集中。賞金10万円。大賞は、出版の可能性もあり。〆切り、4月30日」

(やってみなければ・・・私も)

(いや、やるんだ)

ガラス窓に夕日が反射している。・・・澪は、カーテンを半分閉めると、やかんで観葉植物に水遣りをし、ピーっと鳴った温泉卵器から卵を取り出した。

・・・質素でさっぱりした、夕ご飯を一人きりで食べながら、澪はオレンジ色の夕日を見つめて、いた。

(自由)

(20年間、渇望して得られなかった自由が、望んでいたものが今ここにある)

(精一杯、今を書こう)

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