スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←相手ありき →怒り
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png Morning Glory
もくじ  3kaku_s_L.png Black short short
もくじ  3kaku_s_L.png DOWN BEAT
もくじ  3kaku_s_L.png 刻印-sin-
もくじ  3kaku_s_L.png あとがき
もくじ  3kaku_s_L.png 現実の林檎
もくじ  3kaku_s_L.png 短編いくつか
もくじ  3kaku_s_L.png その後の短編
【相手ありき】へ  【怒り】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

水面の鳥ーBLUEBIRD-

第17章

 ←相手ありき →怒り
澪が、気がつくと時計は8時を回っていた。・・・寝室の、曇った防犯ガラスは露でしめっている。澪は、ガラスに指を這わせながら思った。

「トイレの疫病神」

それが、グループホーム時代の澪についたあだ名だった。

澪は、病院から即、ホームに移ったにしては、仕事は出来る方だった。・・・若く見える新ドクターのせいで、減薬がスムーズに進んだせいもあり、調理実習にしろ、掃除にしろ、裁縫にしろ目に止まらぬスピードで上達して行った。

だが。

人間関係が、全くダメだった。

上の職員に媚を売り、下の立場の者に気を使う事が、澪にはからっきし出来なかったのだ。・・・最初、重宝されていた澪は、だんだん「出しゃばり」扱いされ始めた。

最後に、回って来た仕事が、トイレの清掃だった。

しかし、それですら澪は「やり過ぎ」た。同じ仕事に就いている蓉子は、「トイレの神様」と、揶揄と愛情をこめて呼ばれていたのに。

澪は、普通2年間いるグループホームを、1年間で結局卒業した。

それから。

フィアンセの和夫は、間もなく最も本人が避けていたタイプの、遊び人の女性にあっけなく陥落した。・・・そして、鷹士は・・・。

「叔母さんの、社会的評価は、ゼロですよ」

ある時、若さの特権ともいえる残酷さで、鷹士はそう言い切った。

(その、通りだ)

(社会的価値は、ゼロ)

(嫁としても、ゼロ)

(そして、女としても・・・ゼロ)

リアルの人間関係とは、金に換算されるものだ。・・・澪は、とうとうグループホームでも最低の、1ヶ月に500円の給金しか貰えなかった。フィアンセの和夫は、他の女性のために、生命保険を払う事に、決めた。そして鷹士は、当然のことながら、ついに1個のペンダントも買わずに、澪の肉体を味わい尽して去って行った。

(私は)

(おそらく、書けるのだ)

(20年間の病院暮らしのあと、いきなり飛び込んだ、詩のサークルではおそらく、紗生に次ぐ2番手。・・・そして、今菱沼先生のオープンキャンパスで、一番目をかけられているのが、私)

(でも)

澪は、泣きながら思った。

(リアルの世界で、本当に私を抱きしめてくれる愛人は、誰もいない)

(夫・・・も、当然いない)

ハグ。

それが、澪の真に真に求めているものだったのに。

涙と鼻水を啜っていると、また電話が鳴った。(聡子・・・?)

いやいや受話器を取ると、S詩人会のK先生の声がした。

「夜分、申し訳ありません。Kです」

「いえ」

「今度、4月にS詩人祭をします。・・・それで、お手伝いをお願いしたく・・・」

「はい」

「どうか、なさいましたか?」

「K先生」

澪は、しゃくりあげるものを抑えながら言った。

「私には、社会的には何もありません」

「・・・」

「学歴とか、お金の事ではありません。・・・リアルの社会的能力が、ゼロなんです」

「・・・」

「それでも」澪は言った。「書かなければならないのでしょうか。・・・書いて、書いて、書いて、この社会に対する恨みつらみを吐き出して、世界を裏側から千枚通しで突き刺す。それが、私のやっている事です」

K先生の、穏やかな声がした。

「貴女は、誰かを愛した事はありませんか?」

「・・・あっても、意味がありませんでした」

「人は」K先生は言った。「本来、結果のために人を愛するのではありません。あなたが、人を愛したことがもしあれば、それをお書きなさい」

「・・・は・・・い」

「S詩人祭、お願いできますか?」

「はい、必ず」

電話は、切れた。澪は、受話器を握りしめて思った。

(書こう)

(童話を、書こう)

(翠玉色の、童話を)

もう、涙は止まっていた。

関連記事



もくじ  3kaku_s_L.png Morning Glory
もくじ  3kaku_s_L.png Black short short
もくじ  3kaku_s_L.png DOWN BEAT
もくじ  3kaku_s_L.png 刻印-sin-
もくじ  3kaku_s_L.png あとがき
もくじ  3kaku_s_L.png 現実の林檎
もくじ  3kaku_s_L.png 短編いくつか
もくじ  3kaku_s_L.png その後の短編
【相手ありき】へ  【怒り】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【相手ありき】へ
  • 【怒り】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。