にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第18章

その晩、澪は寝室で、原稿用紙の升目を、ていねいに青い万年筆で埋めて行った。

(誰に、笑われても構わない・・・これは、私とあの子の、想い出)

初の、童話の下書きは、面白いようにするすると進んだ。原稿用紙7枚を、一気呵成に書きあげた澪は、気がつかない内に微笑みながら眠り込んでいた。



次の朝。

澪が、目を覚ますと、杏子さんが横に居た。

「どうし・・・たの?」

「ごめんなさいね」杏子さんは謝った。「この、散らばっているもの、片付けようとして、つい読んでしまったのよ」

「・・・」

「怒った?」

「別に・・・」杏子さんは、涙ぐんでいた。「これ、ね」

「え?」

「私は、澪さんの書いている難しい詩のことは、よく分からなかったのだけど・・・」

「うん」

杏子さんは、力をこめて言った。「いいわよ」

「そ・・・う?」

「感動したわ」杏子さんは、そう言った。「さ、ご飯よ。あまり、寝てないのでしょう?」

「うん」

杏子さんは、まだ涙を拭き拭き出て行った。澪は、大人しく着替えると、卵ぞうすいと、ほうれん草の胡麻和えと、はちみつ入りの梅干しを食べた。

「今日は、どこかへ行くの?」

「・・・買い物と、ジェルネイルを剥がしに」

「そお」杏子さんは、頷いた。



その午後。

少し遅くなった澪が、息を切らして玄関で、毛皮つきのショートブーツを脱ぐと、父親と杏子さんが珍しく、居間で額を寄せ合っていた。

「・・・?」

「澪」父親は、言った。「杏子さんに、音読してもらったよ、お前の童話を」

「ええ?」

「あれは、いい」父親は言った。「私は、もう老眼がきついので、杏子さんが朗読してくれたんだ。勝手な事だが」

「・・・」

「あれは、お前の魂の叫びだ、とわしは思った」

「・・・」

「今まで」父親は続けた。「お前の書いたものを、一度も読んでやらなくて、済まなかった」

横では、杏子さんが目を赤くしていた。

「あれは」父親は続けた。「わしが、どこかで自費出版してやる」

澪は、慌てて言った。「嬉しいけど・・・それは、断るわ」

「どうして?澪さん」杏子さんは言った。

「家は」澪は言った。「今、家族がばらばらで、前ほど余裕がないのは知っているわ。・・・それに、私これ、どこかに応募したいの。・・・そんなにいいと言ってくれるのなら」

「そうか」父親はソファに腰を埋めた。「早い方がいいな」

「検索してみるわ」

「色々あるの、澪さん?」

「童話や、絵本の公募なら沢山ある筈よ。・・・絵本だと、イラスト付きが条件のところも多いけれど」

「もう、わしの手を離れかかっているんだな、お前は」

澪は笑った。「どういたしまして。・・・杏子さん、ありがとう。この分からずやの人に、朗読までしてくれて」

「杏子さんは、朗読の才能もあるぞ」

「いやねぇ」杏子さんは頬を染めた。「・・・本当言うとね、昔、看護師だった頃、よく子供たちに聞かせていたんですよ」

「それで、童話が好きなのね」

突然、居間を揺れが襲った。・・・天井のシャンデリアと、フロアライトが激しく揺れた。

「きゃああ」

「こ・・・れ・・・」

「じっとしていなさい!」


それは、関東圏にも及ぶ、東日本地震の到来だった。
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