にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第19章

大地震の到来から、1ヶ月が過ぎた。

街は薄暗く、澪の好きだったデパートは閑散としていた。・・・澪は、駅の動かないエスカレーターを見捨てて、階段を息を切らせながらホームへと昇った。

その日は、詩会のサークルの日だった。

終礼と共に、近くのカフェで、仲間と、ラム酒とホイップクリームのかかったシフォンケーキと紅茶を頂くのが、サークルの恒例になっていたが・・・。

中で、詩の朗読会を、唯一昔から主催していると言う経歴の、未幸さんが言った。

「紗生とN先生、時々一緒に飲んでるみたいよ」

「そりゃ、そうでしょう。・・・一番可愛いい弟子だもの」澪は、あまり何も考えずに言った。

「そうじゃなくって」未幸さんは、声を低くした。「あの先生、色々噂があるのよ」

「噂・・・」

「あんた、紗生と一番親しいでしょう?」

「え・・・え」

「忠告、しといてよね」未幸さんは、持ち前のめりはりのある声を、少しくぐもらせて言った。「『うみねこ堂』の、存続にも関わることだから」

「そうよねぇ」会計係の、麻衣子さんも同意した。他のメンバーは、何とも言えない曖昧な表情で、紅茶に口をつけていた。

忠告。

一番、苦手な仕事だ。

その晩、それでも澪は、紗生にメールした。

「今日も、楽しかったですね。ようやく余震も収まって来ました。今、電話しても大丈夫ですか?」

すぐ、メールは帰って来た。「いいよ」

紗生らしい。・・・澪は、気の進まない手で携帯のタッチパネルを押した。

「こんばんは」

「こんばんは。・・・紗生、最近のあなたのブログ、時々拝見しているのだけど・・・」

「ん?」

「『あの人、あの人、揺れる揺れるわたしも地面も』って、繰り返し出て来る・・・あれ、N先生の事?」

「そうだよ」

あっけらかんとした答えに、動揺したのは澪の方だった。

「ええとね・・・その・・・」

「分かってる」

「え?」

「・・・奥さんと、別れるつもりないと思う」

絶句したのは、澪の方だった。

「私・・・ひとりになるかもね。『うみねこ堂』にも、迷惑掛けるね」

N先生は、何をやっているのだろうか、と澪は内心憤激した。

「でも、いいの」

「いいって・・・」

「ひとりに、なりたかったの。もう結婚してから10年、ずっとずっと」

「・・・」

「馬鹿だと思うでしょう?」

「うん」澪は素直に答えた。

「でもね」紗生は続けた。「夫婦の、息苦しさって、澪ちゃんには多分わかんないよ。・・・ずっとずっと一緒にいるって、ものすごく・・・」紗生は急に嗚咽し始めた。

「もういい、もういい、紗生ちゃん」澪は言った。「皆には、適当に言っとく」

「・・・ありがと」

電話は切れた。

澪は、頭を抱えながらソファにうずくまった。・・・澪の感覚からすると、あのスマートではあるが、どこか風采のぱっとしないN先生の、どこに魅力があるのか、正直判じかねた。

(確かに)

(N先生は、今年大学を退任し・・・名実ともに、現代詩の一人者として、メディアで活躍し始めている)

(でも)

(でも)

考えても、始まらないと思った澪は、アルコールの代わりに、無糖紅茶のペットボトルを冷蔵庫から出して、そのままがぶ飲みした。

(ひとりはつらいよ、紗生)

(ひとりは・・・)

ソファに、気を失ったように倒れていると、また部屋が揺れた。携帯をふと確認すると、ミーティング仲間だった卓也から、メールが来ていた。

「大丈夫ですか?俺は今度、原発30~50km圏内に飛ばされることになりました。って言うか、もうこっちへ来てるんだよね。・・・GWに、一度会いましょう」


地震は、様々な形で人の有り様に、変化を及ぼしていた。
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