にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第20章

GWの初日は、日差しは強いが風も強い日だった。

夕刻、駅ビルの正面口で、青い小花柄のワンピースに、シャーベットブルーのトレンチコートをはおった澪は、約束より5分前に、こちらに向かってくる卓也の姿を見つけた。

「こんばんは」

「こんばんは・・・。お久しぶり」

卓也は、相変わらずひょろっと背が高かったが、少し老けたように見えた。「何、食べようか?」

「串カツの美味しい店があるの」

二人は、並んで「新鴇」ののれんをくぐった。「串カツ定食2つ」

「かしこまりました」

卓也は、慎重に手ぬぐいを広げて、手を拭きながら言った。「どう?その後」

「それはこっちのセリフよ。・・・被曝してない?」

「まさか」卓也は明るく笑った。「もう、シーベルトは下がってるよ・・・。ただ、酷い有様だね、市内は」

「ひどい、会社ねぇ」澪は、ステイックサラダに味噌マヨネーズをつけながら言った。「まるで、死にに行けと言うような」

「そんなことないよ」卓也は慌てて言った。「俺、今通信でPSWの資格取ってるの。・・・普通なら、首になるとこを福島に転勤にしてくれたんだ。感謝してる」

「そお・・・」

「小説の、方はどう?」

「やだ、覚えてたんだ」

「そりゃあさ」卓也は、串カツにかぶりつきながら言った。「ミーティングの最中に、詩とか小説とか、絵とか言ってるの君だけだもん。他の子は、買い物依存とか、DV彼氏の話ばっかさ」

「うん。・・・実はね、童話を一つ書いたの」

「おっ」

「それで・・・公募に出してみたら、M出版社から、出版の話は出たのよ」

「すごいじゃないか」

「でも」澪は続けた。「あの、地震騒ぎの間に、言われた事はね・・・・」

「うん」

「『君の、書くものをABC判定した、感性、文章力、企画力など16部門にわたって』」

「・・・俺よく分かんないけどさ、小説とか童話って、そういう風に受験みたいに点数つけるものなのかい?」

「私にも分かんないわ」澪はため息をついた。「『その結果をいいます。・・・貴女の小説は、賞を取る類のものではない。ただ」

「ただ?」

「・・・出版すれば、売れる小説です』だって」

「そりゃまた」卓也は言った。「シビアだね。・・・自己出版させるための、方便と言う事はないの?」

「それは多少あるでしょうね」澪は認めた。「・・・だから、一応断ったの」

「もったいない話のような気もするな」

「だって・・・このご時世に、ものすごい桁の見積もりが来ちゃって」

「ふぅん」

「だから、今S文学館に応募して、様子見よ」

「それも、金がかかるんじゃないのかい?」

「だとは思う」澪も、アスパラガスの串カツを頬張った。「けどね、M出版社は、童話に関しては正直実績がないし。7月の、童話大賞に、もう一度出してみるつもりよ」

それきり、二人は黙って味噌汁を飲んだ。

「・・・自分の話ばっかりで、ごめんなさい。通信で、大学続くのはすごいわね」

「そうでも」卓也はたくあんに手を伸ばしながら言った。「・・・いつも謙遜ばっかりなんだから」

「話は変わるけどさ」卓也は、急に澪の方を向いて言った。「今、BFいる?」

「いない」

「俺も」

二人は、お新香でご飯を食べ終えた。「3980円です」板前さんは言った。「俺払うよ」

「いいわよ」澪は2千円を財布から抜き出した。

「悪い」卓也は悪びれずに言った。「じゃ、お茶奢るさ」

「ありがとう」

スターバックスは、混んでいた。澪の、桜色の斜めフレンチのジェルネイルを見て、卓也は目を細めた。「それ、綺麗だ」

「『ネイルサロン 格安』でググって、見つけたのよ」

「どうでもいいよ。・・・綺麗なものは綺麗だ」

「・・・ありがとう」

「澪は、やっぱり女の子なんだな」

「そんな年じゃないわよ」

「いや」卓也は、澪の目をまっすぐ見て言った。「君、いつも自分が女性であることに自信がないだろう?」

「よく、分かるわね」

「そんな引け目はもう要らないよ。今日の君はかわいい」

「・・・」

「生まれた時から、そもそも君はかわいかったと思う」

「何で、知りもしないこと分かるの・・・」

「『分かち合い』のお陰だよ」卓也はウインクした。「それと、カウンセリングの勉強のお陰」

「ありがとう・・・ありがとう」

二人は、スターバックスを出ると、駅の反対口に向かって歩いて行った。途中に、節電でやけに暗い角にぶつかった。・・・卓也は立ち止った。背のひょろりと高い卓也を、見上げるように澪も立ち止まった。

「なんだか」卓也は呟いた。「いけないところだね」

澪は、卓也の首に手を回して囁いた。「キスして」

二人は、人目を避けるようにすばやく、初めてのキスをした。

「またね」

「またね」

・・・駅に向かって、卓也はまた、少し右肩を落として、危険な原発のある左遷先に、帰っていく。澪は、叫び出したい気持ちをこらえて、その後ろ姿を見送っていた。
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