にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第21章

それから、卓也と澪は頻繁にメールをするようになった。

4度目に卓也に会ったのは、寒い梅雨の日だった。・・・駅に降り立った卓也は、少しふらついているようだった。

「大丈夫?」

「この間の、検査ね・・・。やっぱり、ちょっと被爆してるみたいだ」

(少しでは、ないかも知れない)と、思いながら澪はバッグの中を探した。

「これ」

「何?」

「・・・近くの神社で買った、お守り。無宗教だって言ってたから、嫌いかと思ったけれど」

「そんなことないよ。こりゃあ、お礼をしなくっちゃな」

歩きだした二人は、駅ビルのアクセサリー屋で足を止めた。

「ここ・・・」

「可愛いね。入って、みようか」

アクセサリー屋は、若い女の子でごった返していた。

「これ」

「うん?」

「君に、似合うよ」

卓也が手に取ったのは、ピンクのパールに薔薇の花がフロントについたチョーカーだった。

「綺麗・・・」

「だろ?」

「ありがとう」

卓也は、悪びれない様子で、レジで代金を支払った。

「これからどうする?」

「・・・私のマンションに、来ない?」

「いいのかい?」

「手料理、ごちそうするわ」

それきり、二人は黙って、雨の商店街を歩いた。・・・澪の傘を持ってくれている卓也は、妙に頼もしく思えた。

「ついたわ」

「へぇ・・・」

澪が、キーをオートロックにかざすと、自動ドアは二つに分かれて開いた。

「すごいところじゃないか」

「・・・まぁね」

澪の部屋は、朝から無我夢中で掃除をしたので、割合片付いていた。白いソファーに腰掛けた卓也は言った。「俺の会社の寮なんか、ゴミ溜めみたいだよ」

「そお?」

「・・・俺の家、貧しくてね」

「そうは、見えないけど・・・」

「親父は、TVで野球見ながら酒飲んでた。おふくろは、優しいけど厳しかった。・・・水穂先生にかかってから、俺の人生は変わった」

「水穂先生・・・あの、SSKの有名な?」

「そうだよ。俺は、あの先生を、尊敬してる」

澪は、キッチンで茄子とベーコンのアラビアータと、トマトと胡瓜と南瓜のサラダを、手際良く作りながら、卓也の話を聞いていた。

「君は、どこの先生に通っているの?」

「別に・・・。地元の駅前のところ」

「君には、ブランド志向がまるでないんだな。俺とは真逆だ」

「小さい時から、『偉い人』に囲まれて育ったから。息苦しいの、そういうものが」

「・・・そうか」

「出来たわよ」

卓也と澪は、ローテーブルに置かれたスパゲッティーを、座布団に座ったまま食べ始めた。

「俺ね」

「ん?」

「宗教的なもの、嫌いって訳でもないんだ。・・・例えば、チベットとか好きさ」

「神秘的なもの?」

「そうだね。宗教的な集団が嫌いなんだよ」

「私も」

「君は、全然ミーティングに馴染まなかったね。あの、集団に」

「ええ・・・」

「どうして?どうしてだと思う?」

「能力がないんでしょ。集団で行動する」

「それだけじゃないなぁ」

「何よ」

「君は、優越感と言う名の箱に入ってる」

「・・・」澪は、フォークを動かす手を止めた。

「そうするとね」卓也は続けた。「本当に、学ぶ気がなくなるんだ。優れた人間から、何かを吸収しようと言う気持ちがね」

「何が言いたいの?」

「・・・その結果、自分がどんどん惨めになってゆく」

「・・・」

「そんな風に、感じた事はない?」

澪は、半分立ちあがって言った。「何しに来たのか、分からないわ。帰って」

「別に、君を責めてる訳じゃない」

「帰ってよ」

「君には、救いがなかったんだろう。その箱の中にしか」

澪は、スパゲッティーの皿を半分ひっくり返した。卓也は、にやっと笑った。

「君を抱きに来たと思った?」

「他に、何があるの?」

「確かに」卓也は言った。「他の男にとっては、君は体以上の意味合いはまるでないだろう。・・・だが僕は、その君の強情さに興味があるんだ」

「か・え・って・よ!」

卓也は、急いで玄関で靴の紐を結びながら、澪には目もくれずに鞄を取り上げた。

「また来るさ」

「来ないで」

「来て、欲しくなる」

澪は、卓也を押し出すようにドアを閉めた。それから、息を弾ませて部屋に戻った。外はもう、カーテンを閉めなければならない程、暗かった。

(馬鹿にして・・・)

卓也の忘れて行ったライターだけが、リビングのローテーブルにぽつんと残っていた。

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