にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第22章

次の朝、頭痛でガンガンする体を抱えながら、澪は、郵便受けを開けた。・・・S文学館からだった。

「残念ながら、不採用です」

澪は、落ち込んだ気持ちを誤魔化そうと、洗面台でマシェリのムース型ワックスで、髪を整え直した。ヘアコロンを吹きかけると、少し気分がリフレッシュした。

(不採用、か・・・)

M出版社。

(豆本、はどうだろう・・・)

絵本の、自費出版には並々ならぬ金がかかる。・・・でも、豆本なら資金は抑えられるかも知れない。それに、今の子供は小さい画面に慣れている。これは、賭けだ。

澪は、勢いもあってM出版社の企画部のT氏の、名刺を探した。

「あの・・・」

「はい?」

「前にお電話したものです。企画部のTさん、お願いします」

果たして電話は繋がった。

「Tです。・・・待ってましたよ」

澪は、背中にへんな冷や汗をかきながら、それでも言った。

「私・・・いえ、家には今そんなに資金はありません」

「ほう?」

「でも・・・以前、私の童話を文庫化したい、と仰ってましたよね」

「それには、あと数編書き足して頂かないと」

「・・・豆本に、したいんです」

「豆本?」

「はい。・・・10年ほど前に、谷沢哲朗さんがお出しになってヒットした・・・『手紙』」

「ああ、ありましたね」

「あんな体裁に、出来ないでしょうか」

「面白い」T氏は、呟くように言った。「それで、20万用意できますか?」

「は?」

「頭金、ですよ」

(何か変)と、思いながらも、澪は持ち前の素直さで返事した。「一応、出来ますが。・・・その前に、原稿を見て頂く訳にはいかないのですか?」

「もう、ネットで拝見しましたよ」

「そうではなくて、契約書は、顔を突き合わせて捺印したいのですが」

T氏は、むっとしたように言った。「古いですね」

「え?」

「・・・とにかく、契約書を郵送すると、何度も言っています。用意できるんですね?」

「まぁ・・・」

「お願い、します」

電話は切れた。

(何か変・・・)

澪は、受話器を放り投げるように置くと、高校時代のことを想い出していた。・・・その頃、澪はアングラ雑誌に、下手な文章を投稿していたのだ。しかし、原稿料は、澪の文章がその雑誌に載った途端にきちんと郵送されてきた。

今、その会社は押しも押されぬ、アンダーグラウンド文化の雑誌社として、成長している。

(金を出せ、の一点張りだ・・・M出版社は)

ベッドに寝転がって考えていると、杏子さんが、いつものようにぴんぽんとベルを鳴らした。

「ただいま」

「あのね・・・私の童話、豆本になるって企画が通ったらしいの」

杏子さんは、珍しくも泣きだした。

「よかった・・・澪さん、ほんとによかった。澪さんにも、きっと『自信』がつくわよ。お父様にも、すぐ連絡しなければ」

「うん・・・」

「いやなの?」杏子さんは声を張り上げた。「だめよ澪さん。これは絶対に、本にしなければ」

「あのね」

「澪さんの夢だったのよね、あの童話を小さい小さい絵本にするのは」

「だけど・・・だけどね」

「良かったこと。さぁ、今夜は澪さんの好きなドリアにするわ」

澪は、杏子さんの、涙をふきふき台所仕事をする姿の横で、なんとも言えない暗雲が、行く手に広がるのを漠然と感じていた。
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