にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第24章

若くて、いがぐり頭の医師は、親切な様子で、澪の気管を診た後言った。

「咳喘息ですね」

「え・・・?」

「あなた、20年間病院暮らしをしていたと仰った」

「ええ・・・」

「体がね」いがぐり頭の、医師は続けた。「弱っているんですよ。そこに、ここ4年ほど無茶をしたでしょう?」

「はい」

「今は」医師は言った。「単剤処方に近い線で済んでいる。・・・しかし、20年間、1日40タブレット近くメジャートランキライザーを飲まされて、肝臓がめちゃめちゃにならなかったのは、奇跡です」

「祖父の遺伝だと」澪は呟いた。「思います・・・。重症のアルコホーリクなのに、肝硬変を起こさず、74才まで生きました」

「しかしね。・・・あなたの場合、梅雨時に気管支がアレルギーを起こすみたいだ。これが、後3年繰り返されると、間違いなく本物の喘息になりますよ」

「そうですか。・・・家系的に、気管支が弱いので」

「とにかく、吸入器を出しておきます。気管支を一時的に拡張します。寝る時は、横向けになって下さい」

「はい」

夜の薬局は、すいていた。処方箋を窓口に出した澪は、咳込みながら、眼鏡をかけた薬剤師の手つきを苦しげに見ていた。

「1680円です。使い方は、ここに書いてある通りです。病状がよくなったと思ったら、朝1回夜1回に減らして下さい。粉剤は使いきること」

「分かりました」

真っ暗な街路に出た澪は、深いため息をついた。

(喘息、か・・・)

(父の遺伝だわ)

(今度なってしまったら、酸素ボンベを背負うことになるかもしれない)

ついてないなぁ。

タクシーに再び乗り込むと、澪は少しうつむき加減になって頭を抱えた。

(これ以上、杏子さんの24時間TVシンドロームに付き合うと、結婚どころか普通の生活ができなくなる)

7日目の蝉。

ふと、そんな言葉が頭をよぎった。

(蝉は、地中に潜っていて、外界に出ると7日目で交尾して死ぬと言う)

(卓也)

(私は、あと3年生きられるんだろうか)

マンションに辿りつくと、杏子さんのいない部屋には、食べ物は何もなかった。・・・チーズクラッカーが一袋と、アイスキャンデーが冷凍庫にぽつんと残っているだけだった。

澪は、震える手で受話器を回した。

「お父さん」

「なんだ、お前か。・・・杏子さんはいい人だよ。わしのところに来て、さめざめと泣いていた」

「そ・・・お」

「咳が出るのか?」

「ええ」

「わしのようになったら、お終いだぞ。冷房は30度にしなさい」

「無理よ・・・」

「杏子さんと」父親は繰り返した。「喧嘩をしたらいかんぞ、喧嘩をな。おやすみ」

電話は切れた。

(30度で、今日の熱帯夜で眠れるわけがない)

(お父さん・・・まだらぼけ、しかかっている)

(杏子さんが管理している財産は、一体どうなっているんだろう)

澪は、冷蔵庫の上段に、冷えたポトフがあるのを見つけた。冷えたポトフは、この上なく不味かったが、ケチャップをかけて何とかやりすごした。

(わたしはまた・・・ひとりに、なった)

閉め忘れたカーテンから漏れる、隣のマンションの灯りが煌々とただ眩しかった。
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