にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第26章

次の次の日、ひろみさんはやって来た。

「あの、前髪・・・」

「ああ、これ」ひろみさんは、白髪の目立つ前髪から、カーラーを外しながら笑った。「巻いたまんまでしたわ。道理で、電車で人がじろじろ見ると思った」

ひろみさんが、作ってくれた生姜入りの豚汁と、にんにくの芽ともやしの炒め物は美味しかった。

「広いねぇ」ひろみさんは、リビングを見まわして言った。

「そうですか・・・?」

「その割に、綺麗にしてるわ」

「・・・父とはどういう・・・?」

「ああ」ひろみさんはふっと笑った。「私、カラオケスナックに勤めてます。浩市さん、そこの常連で。お嬢さんを世話してくれって、頼まれました」

「・・・」

「お父さんと、仲悪い?」ひろみさんは悪びれずに聞いた。

「まぁ・・・」澪は曖昧に答えた。

「私もね」ひろみさんは、エプロンを外しながら言った。「父親が、頑固で頑固で。私も頑固だからさ。中高時代は、帰って来るとすぐ部屋に入って、口利きませんでした。・・・20で結婚、しました。でもそこも出てね。父は13年前に、亡くなったよ」

「・・・」

「さて」ひろみさんは言った。「あと、なにしたらいい?」

「お風呂掃除、お願いします」澪は言った。

「よし来た」

ひろみさんが、腕をまくりあげて風呂掃除をしている間、澪は少し緊張がほぐれて、部屋でベッドにうつ伏していた。

「出来たよ」

「ありがとう」

「わたしもさ」ひろみさんは言った。「ちょっとしたこと、お客さんに言われたりすると、眠れなくなっちゃうの。人一倍、くよくよする方でね。けど、寝た方がいいよ。・・・隈が出来てる」

「ありがとう・・・」

「じゃね」

澪は、慌てて言った。「もう、お帰り?」

「仕事済んだもの」ひろみさんは笑った。「心配だから、明日も様子見に来ようかな」

「・・・お願いします」

「じゃ、ね」

ひろみさんは、派手な安いサンダルに、素足を突っ掛けて帰って行った。

(ああいう人)

(はじめて、だ・・・)

(さみしいって、心配してくれたんだ)


澪が、就労支援所の門を叩いたのは、その翌々日だった。

「はじめまして・・・」

「グループホームに、いらっしゃったのね」50代の、痩せぎすの職員が、澪の相手をしてくれた。

「私、役立たずで」

「そんなことないでしょ」職員は、明るく言った。「20年、入院生活をして、グループホームから1年で一人暮らし。なかなか出来る事じゃないわ」

「でも・・・」

「社員食堂の、お手伝いお願いできるかしら?」

「・・・」

「皆、出来ないのよ」職員は言った。「初めはね」

「お名前、お聞きしていいですか?」

「しまった」名刺を出しながら、その職員は言った。「私の声が、小さかったかな。尾登と言います」

「私は、協調性が無いって・・・言われました」

「それも」尾登さんは言った。「だんだん、ついてくるものです」

「・・・」

「泣かなくって、いいから」尾登さんは言った。「あそこの、グループホームは、利用者主導で、かえって厳しいのよね。でもここは、職員がフォローしますから」

「やって・・・みます」

「ありがとう」澪と尾登さんは、握手した。

澪は思った。

(だんだん)

(だんだん)

(妬みもせず、いびりもせず・・・普通に、私に接してくれる人が・・・出来て、来た)

外では、ひぐらしが煩いほど鳴いていた。・・・それは澪の心が、リアルの世界へ向かいだした夏だった。
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