にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第27章

「詩の棚卸し?」卓也は電話越しに言った。「何だそれは?」

「今、サークルの方は少し、お休みしてるの。会場が、経済冷房で29℃なんですもの。・・・病気になっちゃうわ」

「答えになってないぞ」

「過去の詩を・・・見直してるの」

「それくらいは、俺にも分かる」卓也は少しいらいらした声で言った。「それで?」

「・・・自分の生き方を、見直しているのよ、今」

「・・・」

「K先生は、いいトレーナーだと思うわ。女の生き方としても」

「女性の教師か?どういうところが?」

「私の詩はね」

「うん」

「『相手に対する思いが叩きつけてあると言う意味では、面白いです。ただ、その時相手がどんな様子だったのか。どんな服を着ていて、どんな表情で、どんな爪の形をしていたのか、をもっと描写して下さい』」

「なるほど」

「『そして』」澪は続けた。「『最後に、あなたが何を感じていたのか、その一章を入れてくれると詩が引き締まります』って」

「なるほどね」卓也は言った。「自分を持てと言う事か」

「そうね」

「あんまり無茶するなよ。・・・また、台風の影響で雨が多い。湿気は、君の咳喘息によくないんだろう?」

「そうなのよ。・・・でも、就労支援所も今のところうまく行ってるし」

「体を壊したら、元も子もない」

「・・・あなたと遊べなくなるわね」

卓也は、電話の向こうで首をすくめたようだった。「もう、お泊りの許可は出ないのかな?」

「なにそれ」澪は笑った。「境界線の曖昧な人間と、関わりたくないんじゃないの?」

「君は変わりつつある」

「ありがとう」

「・・・肩の、力がやっと抜けてきた感じだ」

「そうなのよ」澪は再び明るく笑った。「ひろみさんのお陰ね、それと色んな人の」

「それが」卓也は言った。「スピリチュアルさ」

「・・・」

「俺の役目はもう」卓也は呟いた。「終わりつつある気がする」

「何言ってるの」

「・・・俺には、助けたい人が沢山いる」

「・・・」

電話は、ぷつんと切れた。

(卓也・・・)

(私は確かに、もう彼にしがみつくのをやめたのかも知れない)

(でも)

澪は、考えるのをやめてベッドに横たわった。昨日の、授業の後の、K先生との会話がフラッシュバックした。

「童話を、自費出版したいんです。・・・あまり資金はありません」

「はい」

「でも」澪は、続けた。「挿絵を描いて下さる方は見つかりました。小さいところでいいんです。先生のご存じのところで、良心的な出版社はありませんか?」

「そうですね」K先生は、目線を虚空に集中させた。「『ほんの泉』。仙台にある出版社です」

「ありがとうございます・・・ありがとう」

「いいんですよ」K先生は言った。「この、授業の目的は各々が詩集を出すことです」

「ありがとうございます」澪は一礼すると、息を吸った。

「あなたはいいものを持っている」K先生は短く言った。「でも、居場所は常に移り変わります。その時、その時に出会った人を、大切にして下さい」

はい。

はい、先生。

・・・雨はまたざあっと降って来た。この雨が終わると、猛暑がやって来るだろう。蝉は、見事に脱皮していくだろう。

(私は、やっと人と共に生きる事を、覚え始めた)

(卓也)

(ありがとう)
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