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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第28章

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就労支援所の仕事は、単調だが楽しかった。

澪の仕事は、社員食堂のメニュー作りだった。・・・親切な痩せぎすの尾登さんは、いつも残りものを澪にくれた。夕飯は大抵それで済ました。余裕がある時は、時々父親を呼んだ。


その夏の暑さは、下旬のある日急に峠を越した。


驚くほど涼しくなったその夏の終わりに、澪のマンションの近くにある沼の畔にあるT記念館で、「うみねこ堂」の詩の朗読会があった。記念館には冷房も暖房もないところを、心配したのか気を使った、地元の詩人の棚原さんという人が、記念館の紹介のついでに、澪たちにウーロン茶とロックアイスを差し入れてくれた。それで、十分涼は取れた。

紗生は、お腹が大きくなっていた。

「5ヶ月なの」

そう語る紗生は、誇らしげでもありまた、恥ずかしげでもあった。

帰り道、「梅泉」で、鰻のかば焼きを食べながら、澪は言った。

「おめでとう」

「うん」

「・・・10年目に、やっと出来て・・・よかった」

「分からないのよ」

「え?」

「どっちのなんだか」

「・・・」

「でもね」紗生は続けた。「赤ちゃんって、『授かりもの』じゃなくて、『預かりもの』でしょう。だから、私、生むことにした」

「・・・そう」

「うん」

「頑張って」

「頑張るよぉ、妊婦さん」紗生はようやく持ち前の明るさでにこっと笑った。

梅泉を出ると、日差しが眩しかった。

「涼しくなったね」

「うん」

「蕎麦の方がよかったかな」

紗生は、何も言わずに頷くと、(でも、精をつけなきゃね)と小さな声で、言った。


杏子さんが辞めたのは、猛暑の最中だった。

「どうしてまた・・・」

「関西にいる、親戚に手伝いに呼ばれているそうだ」

「・・・お父さんは、どうするの?」

「また、他の人を探すさ」父親は伸びをするように言った。「あれは、いい人だった、が・・・」

「ゴメンナサイ」澪は小さな声で言った。

「いいよ。お前の料理もうまくなったし、わしは午前中だけ別の人を頼むよ」

「家・・・苦しいの?」

「いやいや」父親は慌てて言った。「お前が当分暮らせるだけの蓄えはある。何も、心配する事はない。・・・私が、生きている内に嫁に行ってくれるのだけが望みだ」

「・・・」

「例の」父親は続けた。「男の子はどうしたね?」

「・・・音沙汰ないわ」

「ふん」父親は言った。「まぁいいさ。出会いはまたある。焦らんことだ。・・・焦ると、おかしなのがくっついて来るからな」

「はい」

「・・・お前の絵本だが」

「はい」

「よく、探し当てたなぁ」

「え?」

「・・・あれは、いい出版社だ」

「ありがとう」

「挿絵を描いてくれる人は、あてはあるのかね?」

「ええ。・・・岩手にいる画家の方が、ネットであれをみて『挿絵を描きたい』と仰っているの」

「信用できる人だと、いいんだがな。涼しくなったし、一度会おう」

「はい」

澪の、狂ったように暑い8月は、終わりを告げようとしていた。
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