にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第31章

澪は、ベッドから起き上がって言った。「ごめんなさい。うまく行かなくて」

虎久さんは笑った。「あはは。いいんですよ。・・・あなたの体が、まだ固いんですな」

澪は赤くなった。

「こういう事は、徐々にね」

「はい」

「・・・どうか、しましたか?」

「ある、小説の事を思い出していて」

「?」

「ある女性が、ある男に乱暴されて、子供が生めなくなります」

「・・・」

「そして、それを隠してアメリカ人と結婚しますが、離婚に至ります」

「・・・」

「彼女は、その男の事をずっと憎んでいる」

「それは、貴女の書いた小説ですか?」虎久さんは穏やかに聞いた。

「いいえ、もっとずっと有名な人です」澪は続けた。「彼女は、占い師に言われます。大きな蛇が、あなたの部屋にその内出て来る。その蛇は恐ろしげだが害はない。蛇の頭を、しっかりとつかまえていなさいと」

「ほう」

「目が覚めるまで」

「僕が、その蛇と言う訳ですか」

「そうです」

「こりゃ参ったな」虎久さんは頭を掻いた。「すっかり、見抜かれている」

「は?」

「実は貴女に、金を無心したくてね」

澪は、絶句した。虎久さんは呑気に続けた。「100万円くらい、今の貴女には軽いでしょう?」

「冗談じゃありません」澪は、急いで服を着始めた。「帰ります」

「ちょっとまった」

「その手に乗りません」

「まって、くださいよ」

「いやです」澪は、強い語調で言うと、部屋のドアを乱暴に開けた。「非常ベルを押しますよ」

「気の強い・・・」

虎久さんは、後ろからそう言うと、服をのろのろと着始めた。澪は、無視してドアを閉めた。



池袋の路上に出ると、虎久さんが後ろから、意外と確かな足取りで追い付いて来た。「目が覚めたという訳ですか」

「誰だって」

「待って、くださいよ」

虎久さんが、澪の肩に手をかけた途端、いきなり現れた黒っぽい影があった。澪が驚く間もなく、虎久さんは1mくらい後ろに吹っ飛ばされていた。

「卓也!?」

「澪に、何をしているんだ」

「あなた、酔ってるでしょう」ようよう起き上がった、虎久さんが言った。

「そっちこそ酔ってるだろう!」

「もう、やめてよ」澪は言った。「ご老人よ、この人」

「酷いですなぁ」

「老人だか何だか知るか!・・・お前の父親じゃないことくらい、分かる」

「当たり前でしょ」

「やれやれ、私は退散します」

「そうしてくれ」卓也は、かなり泥酔した声で言った。「出てけ!」

「もう」

「なんでこいつを庇うんだ!」

「帰ります」虎久さんは、池袋のS線の入り口に、逃げるように消えて行った。

「ふん」

「勝って嬉しいの?」

「・・・君は冷静なのか、恩知らずなのか分からん」卓也は言った。

「近くに、スターバックスがあるわ」澪は言った。「そこで話しましょう」

深夜のスターバックスは意外と混んでいた。卓也は酔った足取りで、席に座った。

「あなた・・・」

「ん?」

「助かったわ」

「だろ?」

「でも・・・」澪は言い淀んだ。「はっきり、言えよ」

「もう、GFいるんでしょう?」

「いるさ」

「・・・」

「君が振ったんだからな」

「仕方ないでしょう」

「何がだ!」

「あなたは」澪は言った。「自分のやりたいことがある。そのために、自分を支えてくれる女性を探してる」

「そうさ」卓也はコーヒーを不味そうに飲みながら言った。

「・・・私も、そうなのよ」

「自分を支えてくれる男性を探してる?それが、あのじじいか?」

「違ったわ。見込み違いだったわ。でも」澪は続けた。「私は、私より強い男性を支えて、それで一生を送るのは無理なの」

「・・・」

「さよなら」

澪はコートを着た。卓也は、ぽつねんと席に座ったままコーヒーのカップをもてあそんでいた。池袋の夜空は、さっきよりずっとずっと澄んでいた。
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