スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第33章 →大事なこと
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png Morning Glory
もくじ  3kaku_s_L.png Black short short
もくじ  3kaku_s_L.png DOWN BEAT
もくじ  3kaku_s_L.png 刻印-sin-
もくじ  3kaku_s_L.png あとがき
もくじ  3kaku_s_L.png 現実の林檎
もくじ  3kaku_s_L.png 短編いくつか
もくじ  3kaku_s_L.png その後の短編
【第33章】へ  【大事なこと】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

水面の鳥ーBLUEBIRD-

第32章

 ←第33章 →大事なこと
コートを前開きではおった澪が、池袋の路上を歩いていると、卓也が意外としっかりした足取りで追い付いて来た。

「待てよ」

「離して」

「いやだ」卓也は、めずらしく強引な調子で澪の手を取った。

「だから・・・」

「だから?何?」卓也は、酔っているにしてははっきりした語調で言った。「君は、何でもひとりで決めてしまう。ひとりで決めて、ひとりで彷徨って、ひとりで結論を出して幸せになろうとしてる」

「・・・」

「そんな生き方、楽しいか?」

澪は絶句した。卓也は続けた。

「お願いだから、君のその頑固な自我を、ほんのちょっと切り取って俺にくれないか。そうすれば・・・」

「そうすれば?」

「・・・・・」卓也は言い淀んだ。

「何?」

「まだ、気づかないのかい。俺が、何故PSWの職を選んだかを」

「それは・・・」

「君が、好きだからだ」

「わたしは」

「自分に価値がないなんて思うな」卓也は言った。「俺にとっては大事な女だ」

「・・・」澪は、嗚咽し始めた。「わたしは」

卓也は、固く澪を抱きしめた。「もう、いいんだよ」

「・・・わたしはいいところない」

「黙って」

「何もない」澪はしゃくりあげた。「傲慢で、それでいて卑屈で、他人の批判ばかりしてて」

卓也は、澪をさらに強く抱きしめた。深夜の路上で、不可思議な視線を幾人かが投げかけた。「いいんだ」

「よくない」

「いいんだよ。・・・昔は、俺もそうだった」

「卓也・・・」

「もう、やめろ、自分を惨めにするのは」

澪は、鼻水を啜った。鞄からハンカチを出して、思い切りかんだ。

「・・・こどもみたいだね」

「ええ」

卓也は、手を離すと、ポケットからテイッシュを出した。「いいわ。それ、あなたのでしょう?」

「ハンカチじゃないから」卓也は言った。

澪は、出されるままにテイッシュで涙をぬぐった。「送って行くよ」もう、酔いがかなり醒めたらしい卓也はそれを見つめながら静かに言った。

「だめよ」

「何故?」

「あなたと、今晩はそういうことしたくない」澪は言った。「ただ、眠りたい」

「分かったよ」卓也は言った。「俺、引っ越したから。手紙、くれよな」

「・・・メール、変わったの?」

「変わってないさ」卓也は言った。「ただ、ジャマイカ人の友だちに言われたんだよ。『携帯は人間を愚かにする』って」

「・・・分かった」

「それから、家電は空けておくから」卓也は繰り返した。「これがそう」手元の名刺を、澪の手にしっかりと握らせると、卓也はようやく笑顔を見せた。「泣くなよ」

「今日は・・・今晩は、ありがとう」

「やっと、お礼が言えたね」

「うん」

「またな」

「うん。うん・・・」

「本当に、ひとりで帰れるか?大丈夫か?」

「だいじょうぶ」

「わかった」卓也は、澪の肩に手を置いて言った。「気をつけて」

「ありがとう」

「うん」

澪は、卓也の視線を振り切るように歩き始めた。・・・足取りは、自分で思ったよりふらふらしていた。100メートルほど離れたところで、財布の中身を確かめると、タクシー代には少しお釣りが出る金額だった。

駅前で、タクシーに乗り込むと、澪は思い切り泣いた。運転手の訝しげな様子など、どうでもいいほど激しく号泣した。

(人から)

(好きだと言われたのは)

(はじめてだ)

(私には、自信がなかった。自尊心もなかった。卓也にああ言われるまで、本当は何も持っていなかったのだ)

タクシーは、深夜の高速をすべるように走って行った。
関連記事



もくじ  3kaku_s_L.png Morning Glory
もくじ  3kaku_s_L.png Black short short
もくじ  3kaku_s_L.png DOWN BEAT
もくじ  3kaku_s_L.png 刻印-sin-
もくじ  3kaku_s_L.png あとがき
もくじ  3kaku_s_L.png 現実の林檎
もくじ  3kaku_s_L.png 短編いくつか
もくじ  3kaku_s_L.png その後の短編
【第33章】へ  【大事なこと】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第33章】へ
  • 【大事なこと】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。