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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第34章

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元旦の夕方、澪は父親とおせちを食べていた。

「それで、卓也くんは被爆している模様なのかい?」

「ええ、まあ・・・」澪は曖昧に答えながら、栗きんとんをつまんだ。

「ふうむ」父親は呻った。

「なあに?」

「いやその・・・。同じ、男としてどうも納得がいかん」

「いやね」澪は顔をあからめた。「途中で帰ったこと?」

「ううむ・・・それだよ。卓也くんは、他に好きな女性がいるのじゃないのかね?」

澪は、栗きんとんを落っことしそうになった。

「そんな。確かに、福島から出てきた幼馴染のGFがいるとは言っていたけれども」

父親は、咳払いをした。「澪、この際はっきり言っておくがな。金のない人間は金に惹かれるものだ」

澪の頭の中を、フラッシュバックした科白があった。

(もし、君が資産家の娘でなくても、杏子さんは君を応援したと思う?)

(誠実さとは、時に最高の武器になるんだよ)

「気にいらんね」父親は、海苔で巻いた餅を食べながら言った。「もう、卓也くんをここに呼ぶのはやめなさい」

澪は思った。

(人は、常に他人に託して自分の事を言うものだ)


その夜。

意を決した澪は、買い換えたスマートフォンに向かった。息を吸って、短いメールを打った。

「卓也。・・・あなた、例のGFと別れてないの?」

答えは、暫くして帰って来た。

「ああ」

「どうして?・・・どうして」

「俺がいないと、彼女は生きてゆけない」

(それは私も同じよ)と、叫びたい気持ちを抑えて澪は打った。「別れて」

「いやだ」

「いやって・・・」

メールはそこで切れた。頭がだんだん混濁してきた澪は、頓服を探した。・・・ない。

澪は、震える手で携帯の電話番号を押した。

「お使いの電話機は、ただいま電源が入っておりません」

冷たいコールに澪は、混乱してきた。・・・再び、澪はメールに向かった。

「昨日・・・本当に年越し稽古に行ったの?」

沈黙。

「彼女を愛してるの?」

沈黙。

(卓也は、思えば私より7才も年下なのだ)

「卓也!返事して」

再び沈黙。

澪は、観念して待ったが、果たして沈黙は続いた。

1時間経過。

「いやよ・・・」

2時間経過。

「ホテルにチェックインしたって、彼女となの?」

3時間経過。

「私を抱きしめた後、彼女と寝たの?」

澪はもう、頭が割れそうだった。

「卓也!」

「あなたは」

「誠実を装った、杏子さんと同じなの?同じ人種なの?」

夜はどんどん更けてゆく。

「この・・・エセPSW」澪は、とうとうそう打った。かなり息切れがしている。すぐさまメールは帰って来た。

「君の行為は、脅迫行為&ストーカーに該当する。僕は明日、働かなければならないのに眠れない。君を訴える用意は出来ている」

澪は、ベッドにうつ伏した。一滴の涙すら、もはや出て来なかった。

外は、煌々とした朝日が昇ろうとしていた。
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