にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第35章

「それでさ」泣き腫らした目の澪の前で、ハンバーグを食べながら蓉子は言った。「私に、何を言って欲しいの?」

「え・・・」

「人生ってね」蓉子はきっぱり言った。「人に出してもらう答えって、ないんだよ。自分で、自分のしたいことに向かって突き進んで、その結果の自分をよしとして、また進んでいくしかないんだよ」

「・・・」

「澪ちゃんはさ」蓉子は言った。「何をしたいの?結婚?」

「結婚は・・・」澪は言い淀んだ。「私は、まだ何も書きあげていないし、それに」

「したくないんだ」

「・・・うん」

「会う、相手ごとに『この人、私の理想の結婚相手に、合うかなぁ』って思ってたら、相手にも失礼だよ。理想って、ほんとうに自分が実現したい現実とは、違うんだからさ」

「そうだね」

「澪ちゃんは、結婚に憧れ過ぎだと思う」蓉子は、付け合わせのミックスベジタブルをフォークですくいながら言った。「大変だよ、人間が二人で暮らして行くのはさ」

「ごめん」

「あやまることじゃあない」蓉子は、ドリンクバーから取って来たカプチーノを飲み干した。

「うん」

「じゃ、ね」蓉子は、中綿のキルティングコートを着ながら言った。「来年こそ、ダウンが欲しいなぁ」

「ありがとう」

蓉子は、にっと笑うと立ち上がってドアから外へ消えて行った。

(蓉子・・・)

(苦しいんだ、生活が)

澪は、自分もギャローリアのロングダウンコートを羽織ると、サイゼリヤの外に出た。外は、カップルが手を繋いで福袋を抱えていた。歩きながら、澪はなんとなく、どのカップルもどのカップルも、つい先日の自分と卓也にだぶって思えた。知らず知らず、暖かい涙が出てきた。

(私は世界と親和することを知らなかった)

(私と世界の間に、いつも薄い膜があって私を世界から妨げていた)

卓也は、いつも澪の奥深くの感情を解放したことに、澪は気づき始めていた。


1週間後、新年早々の、クリニックで澪は言った。

「別れたくありません」

「しかしね・・・」ドクターはいつものようにはっきりした発音で言った。「その人は、君にプラスの影響を与えないです」

「そうでしょうか?」

「どういうことですか?」

「・・・彼にハグされて、私はやっと離人症が治りました。初めて、就労支援所が合っていないことにも気づきました。皆が、あそこは安全な場所だと言います。でも」

「でも?」

「物理的にはともかく、精神的に、安心できないんです。・・・居場所が無いんです。おまけに、新法に移行してからは、お小遣い程度の金額も貰えません」

「物理的に安全と言うのは、大事な事です」

「私には母親がいません」

ドクターはため息をついた。「いないものは仕方が無い。・・支援のヘルパーさんを頼むこと。自助グループには近づかないこと。僕が言えるのはそれだけです」

澪は、診察室のドアを閉めて思った。

(戦いが始まる)

(誰とのでもない、自分の)

(他ならぬ、自分自身との戦いが)

冬の午前は冷え冷えと明るかった。
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