にがくてあまい午後

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水面の鳥ーBLUEBIRD-

第36章

「けどさ」聡子はタリーズのアフォガートを頬張りながら言った。「そいつ、要するに逆玉狙いでしょ?」

「そうね」澪は、チキンサンドイッチを片づけながら言った。

「うーん」聡子は言った。「あたしの友だちで、ほんとに金持ち狙ってる子って凄いわよ。とてもじゃないけど真似できないわ。・・・あたしは、そこそこに愛も欲しかったから、マンション暮らしで我慢してるけど。あんたみたいな世間知らずに、渡り合える相手と思えない」

「言われるなぁ」澪は言った。「これでもさ」

「え?」

「・・・卓也が来る日は、貴金属類は全部鍵をかけてしまってあるの。あまり、言いたくなかったんだけど」

「ほぉー」

「わたしの祖母の年金、昔ぼんやりしてたら母に全部猫婆された経緯があるから。・・・要するに、あの人、母に似てるのよ」

「まずいやんそれ」

「うん」澪は認めた。「世間勉強になるかと思ったけど・・・でも・・・」

「世間勉強ってね、まず学校でするものよ。安全な場所でね」

「聡子まで、就労支援所の事言うの?」

「安全な場所ったってね」聡子はスプーンを置いて言った。「掘り出しゃ、ゴミはいくらでも出て来るわよ。あんたがそれに、気づいていないだけ」

「・・・」

「支援所のダストシュートの掃除なんかしてないで、本当のゴミを片付けなさい」聡子はそう言うと、白いダウンを取り上げた。「そういえばね」

「え?」

「例の担任、首になったわよ。じゃあね」

聡子はカツカツとヒールの音をさせて歩いて行った。

(ゴミ、か・・・)

(そういえば)

(あの頃は気づかなかったけど、福山さんもデイケアの部屋で女性クライアントとよくメールしてたっけ、な。背中越しに)


それでも、三日後、就労支援所で澪は尾登さんに言った。

「わたし・・・」

「ん?」

「・・・障害者だから、騙されるのも経験なんでしょうか」

「あのね」尾登さんはめずらしくはっきりした語調で言った。「私の弟も障害者です。手帳1級」

「すみません」

「騙されるのは、本人の責任です」

「・・・」

「障害者でも、幸せな結婚をしてる人は沢山います。あなたのようなお嬢さんは・・・・」尾登さんははっと気づいて激昂した口ぶりをとめた。「ごめんなさい」

「いいえ」

しょんぼりした澪は、給湯室でいつものようにダストシュートの掃除をしようとして、途中で手を止めた。

(聡子の言う事は正しい)

(こんなことしてる場合じゃない)

澪はあとからあとから涙があふれてきた。気がつくと、お茶を入れに来たらしい、目立たない仲間が後ろから声をかけてきた。

「どうしたの・・・?」

「なんでも」

「なんでも・・・?」

「ないよ」澪は涙をぬぐいながら言った。

「澪さん、お金持ちだから苦労ないかと思ってた」その子は言った。

「あなた・・・?」

「奈央子と言います」

「ごめんね。今、泣くしかできないの」

「そう」奈央子は言った。「やかんに水入れていい?」

「いいよ」

「一緒に、紅茶飲もう」

澪はうずくまって泣きだした。「あの・・・・」

「いいのいいの」

「迷惑だった?」

「嬉しいよ」澪は何とか立ち上がって言った。「頂くわ」

就労支援所で、奈央子が100円ショップのマグカップに注ぐ安い海外産の紅茶は、・・・それは澪が他人に初めて淹れてもらったお茶だった。
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