にがくてあまい午後

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にがくてあまい午後

失敗

次の日、少し元気が出たあたしは、けいちゃんに残暑見舞いを書いた。

「一人で頑張って疲れてるような気がします。お元気で。お盆明けにまたお会いしたいです」

朝九時の郵便局で、絵手紙に五十円切手を貼ると、あたしは外に出た。・・・日差しは強かったけど、もう殺人的な暑さではなかった。自転車をぐるっとまわして、アスファルトを走って就労支援所についた。

しかし、ことは思ったほど簡単じゃなかった。

朝の打ち合わせが終わったところを見計らって、所長さんに、あたしは絵手紙をおそるおそる渡した。

「近藤さんに、残暑お見舞い書いたんです。できたら、送ってくださるようお願いします」

自分でも、馬鹿なことやってるなぁとは思った。・・・こんなまどろっこしいことする前に、もっともっと早くに、けいちゃんのメルアドを聞き出しておくべきだったのだ。だけど、あたしはけいちゃんと二人きりになるチャンスを、なんとまだ掴んでなかった。あたしは空気を読むのがど下手なのだ。

所長さんは、文面をちらっと見て言った。

「この文面はどうかなぁ。近藤君は、盆が明けても出てこられるかどうかわからない。・・・せかすのはよくないからね。このはがきは、返しておきます」

やっぱり。

あたしはしょぼんとすると同時に、不安で泣きたくなってきた。けいちゃんの具合はそんなに悪いんだろうか。

もしかしたら。

心身ともに、この暑さで消耗しきってるのかも知れない。

それきりあたしは、苦手なパッチワークを一生懸命した。またぼおっと目がかすんできた。

(けいちゃん)

(けいちゃん)

(今、泣いたらいけない)

ふと、気がつくと手芸担当の、元木さんの顔が目の前にあった。

「どうしたの?そんなに根をつめて縫わなくてもいいわよ」

「・・・」

あたしは、ただ何かに集中していないと、泣き出しそうだったのだ。

「敦美さん、一人暮らしでぼっちだって気にしてたけど・・・。最近、明るくなったなって思っていたのよ。他の子だって、家に帰りたくて帰ってるわけじゃないし」

あたしは、はっとした。

「お父さんのことも、『ありがたいと思うようになった』って昨日言ってたじゃない。・・・もし、食事作らなくっちゃいけないんだったら、帰っていいのよ」

「・・・」

「家族って大事よ」

「・・・帰ります」

あたしはぎらぎらする陽光の眩しい外に出た。確かに、あたしには同居できる家族がいない。一家離散したのは二年前のことだ.

でも。

たぶん、我慢してるのはあたしだけじゃないのだ。

それでも出来るだけ家族連れを見ないようにして、自転車で道を飛ばした。けいちゃんは、生まれてはじめてあたしを大事にしてくれた人だったのだ。

その、けいちゃんが今いない。

だけどスタンドプレーはまずい。

ふと、思いついてあたしは文房具屋の前で自転車を止めた。

「色紙、二枚・・・いえ三枚ください」

寄せ書き。

皆で、けいちゃんにお見舞いの寄せ書きを送ろう、と思ったのだ。サインペンは支援所に沢山ある。

空気読めないあたしは、はっきりいって人望はない。・・・でも、けいちゃんは違うはずだ。仲のいい、食堂担当の子から口説き落としていけば、十人、いや二十人は多分集まる。

・・・それにけいちゃんはホントに、なんかのせいで就労支援所を無期懲役になってるのかも知れないと、あたしは当たる勘で思った。

労組運動、しなくっちゃ。


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