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にがくてあまい午後

グッド・バイ

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鬼束ちひろ。

・・・あたしは、よくは知らないけど、奔放な言動が話題になってる人だ。けいちゃんは、ああいう万年青春した、つまりあたしの音信不通の母親みたいな人が好きなんだろうか。

あたしは、ちょっと母親の面影を思い出しただけで、ぞっとした。・・・ああいう風にだけはなりたくないと思って生きてきたのに。

しかし、すぐ週明けつまりお盆明けに、いよいよショックなことが待っていた。

けいちゃんは出てきてなかった。そして、支援所でのミーティングで、所長さんはなにげなくしかしはっきり言った。「春日井君は、他の民間の施設に移った。・・・今まで、戦力としてよくやってくれたが、今後は皆が代わって欲しい」

春日井。

あんまり、好きじゃなかったけど。

一番気になってて、一番就労に向けて頑張ってきたやつだ。

あたしは慌てて、ミーティングが終わるとすぐ、給湯室で薬を飲んでる、おっとりした橘に聞いた。「春日井君、どこ移ったか知ってる?」

「アルファポート。・・・就労支援A型。時給八百円だって」

やっぱり。

皆、死ぬほど稼ぎたいんだ。

その意味で、スタッフのいや国の方向性は、間違ってるとは言えない。

でも、あたしは額がじっとりして咳が出始めていた。「大丈夫?」

「ん・・・だいじょぶ」

あたしは、働くこと自体は嫌いじゃない。

でも、長年引きこもって寝込んでたあたしの体に、そもそも就労自体が向いてないのだ。・・・ドクターもはっきり診断書に書いた。「就労は無理と考えられる」

あたしはかなり落ち込んで、こんこん咳をしながらロッカーの荷物をこっそり全部出すと、自転車の荷台に積んだ。それから、まだ暑い道を、自転車をマンションに向けて発進させた。

グッバイ、就労支援所。

けいちゃんは本当に疲れてるのかも知れない。

それで返事したくないんだ。・・・というより、そもそもあたしにメンバーとして優しかっただけなんだ。

「一人分、ご飯つくるの大変でしょう」

「歩いて何分くらいのとこに住んでるの?」

「絵の先生になれるよ」

「明日はまた必ず来てね」

そんな、けいちゃんの台詞がフラッシュバックした。・・・あたしはちゃんと来たのに。

卑怯者。

マンションに帰ると、あたしは冷房をつけてベッドに倒れた。あとからあとから咳が出てきた。涙も出てきた。

誰も大事にしてくれなかったあたしのことを、

一時だけ、大事にしてくれた人よ、さようなら。

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