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にがくてあまい午後

恋しい

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あたしは、土曜日いつものように自助グループに出ていた。高ちゃんにまた書記を頼まれて、就労支援所のスタッフがパリへ行って買ってきたというお土産のボールペンで、ノートに会計収支をつけた。

暇なので、ボールペンのボディに浮かんでる飛行機を見つめていたら、前に何度か食事したことのある、芹田が遅れて来た。・・・あたしが、最後にむかっ腹立てて、「ブランド物着たくず」って言ってそれっきり別れたやつだ。

だけど、芹田はどうも、いつものように要領のいい発言をした後は、めずらしく上の空みたいだった。・・・話し合いが終わると、本当は大好きな、お茶会にも出ないと言って駅に向かって歩いて行った。

(新しい彼女、出来たのかなぁ)

あたしは、それっきり黙って、高ちゃんと向かいの席についた。何故か、今日は高ちゃんとよく目が合う。

「何好き?食べるもの」

「お寿司。特にうにとかいくらとか」

「・・・あたし、まぐろとかあなごとかさっぱりしたのが好きなんだけど」

「俺さ、毎日ふりかけ弁当なの」

「ふりかけ?」

「ご飯、タッパーにつめてのりたまかけるだけ」高ちゃんは、上目づかいであたしをちらっと見た。あたしはなんといっていいか分からなかった。

「・・・」

「今さ、障害者枠でしょ、俺」

「うん」

「・・・みんな、コンプレックスって言うか、恨みが強くって始末に困るんだよ。・・・上司は天下りの人で、なんでこんな部署に配属されたの俺、ってありありと思ってるしさ」

「天下りはだめだよね・・・」

高ちゃんは、あたしの言葉を無視して続けた。「俺、一般枠になんとしても入るよ」

「うん・・・」

あたしは、それっきり言葉を飲み込んで、マックの入り口で高ちゃんと別れた。ルームシェアしようよ、という台詞をなぜかおなかに詰め込んだまま。

高ちゃんと一緒になったら。

毎日、十時近くに起きるのやめて。

朝早く起きて、高ちゃんにたこさんウインナ入ったお弁当作って。

高ちゃんが一般枠に入ったら、うにといくらのお寿司でお祝いするんだろうか。

ケンゾーのシャツと、ビルケンのサンダル履いた高ちゃんの後姿を見送りながら、あたしは思った。

ブランド物着たくず、って芹田には言っちゃったけど、じゃあブランド物着た「本物」だったら、あたしは好きになれるんだろうか?

あたしは、高ちゃんのこっちのペースを大事にしてくれるとこが好きだったのに。

暑い中、マンションにふらふらになってつくと、パパから電話があった。「いつもは日曜日だが、今日は一日早いが行くよ。・・・お母さんが、明日来てくれと言うから」

パパはいっつも「お母さん」の都合優先だ。

「はいはい。・・・冷やし中華でいい?」

「いいよ」

あたしは麺をゆでて、きゅうりとハムを切り始めた。もう一個のコンロで、卵をじゅっと焼いて広げて、細く切った。間もなくチャイムが鳴った。

「いらっしゃい」

「暑いなぁ」

「・・・暑いね」

「咳、大丈夫か?」パパは抑揚のない声で言った。「うん、大丈夫」

それっきり、あたしたちは席に着くと黙って冷やし中華を食べ始めた。「あのさ・・・」

「ん?」

「お母さんの具合、どう?病院かホームに入んないと無理なの?」

パパはちょっとむっとしたように言った。「それはかわいそうだからまだ」

「ふうん・・・」

どうして、パパはママを甘やかすのかなぁ。・・・なんで、あたしのこと産んだんだろう。パパはママとふたりっきりでいたいの、痛いほどよくわかるのに。

「・・・お父さん、子供の頃捨て猫を拾うのが好きでな」

「うん」

「スポイトで、牛乳をやるとよく飲むんだよ」

「そうなの・・・」

「お母さん、貧乏でかわいそうだったろ。一度、拾ったものを捨て置けない」パパはそういうと、ふっと後悔したように、あとは黙って冷やし中華を平らげた。

「ばいばい」

「気を付けるんだぞ」そういって、パパはドアを閉めて歩いて行った。

あたしに、スポイトで牛乳をくれる人は現れるんだろうか。

けいちゃん。

けいちゃん。

けいちゃんが恋しい。

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~ Comment ~

No title

「暇なので、ボールペンのボディに浮かんでる飛行機を見つめていたら」
というところと
「あたしに、スポイトで牛乳をくれる人は現れるんだろうか」
は、詩だなぁ。いいなぁ。

部分だけ切りとって、ごめんね。

だけどこの二行が迫ってくるんだよな。

No title

ありがとう。

「スポイトで牛乳をくれる人」は私もずっと気に入ってたフレーズです。
今は、もう仔猫っぽくなくなっているかな。

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