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にがくてあまい午後

大事なこと

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けいちゃんは、就労支援所を辞めた。

所長さんが、九月の初めのミーティングではっきり言った。「近藤君は、体調不良で入院している。八月末を以て退職されました」

支援所の店からは、あたしが作ったパッチワークのりんごが一つだけ売れていた。・・・おそらくは、けいちゃんが最後に買ったのだ。

あたしはがっかりして、パパに鮭を焼いたけどもう元気がなくって寝転んでいた。パパは、七時過ぎに心配そうに部屋をノックした。

「だいじょぶか」

「だいじょぶだよ」

「パパ、天気予報見たから帰るぞ。気を付けてな」

「うん」

ドアを閉めた後、あたしは気が付いた。・・・けいちゃんは、あたしのママと同じだ。いろいろ口で心配はする。りんごも約束通り買ってくれた。

けど。

けいちゃんを看病してる女性はたぶん他に誰かいるのだ。・・・だから、あたしがいっくらメッセージを送っても返事は帰ってこないのだ。それはけいちゃんの狡さであり弱さだ。

就労支援所は、腹をくくってみれば悪いとこではなかった。

けいちゃんはただただやさしかった。でも、新所長の風間さんは強い人だ。就労が必要なことを見据えて、なおかつ落ちこぼれをそれなりに遇している。

それはあたしのパパがやってることと同じだ。

あたしに飯を食わせて、屋根をくれて、毎日さみしくないように片道二十分の道を歩いてくれてきているのはパパだ。

人を大事にするとはそういうことだった。・・・「心配よ心配よ」って口で騒ぐことではなかった。

あたしは、いろいろ自分の傷に気を取られ過ぎていて、ものが見えなくなっていたのだ。

(高ちゃん)

あたしは、気が付くと高ちゃんのことを思っていた。・・・うにといくらのお寿司がいやなんて贅沢だ。

もし、どうしてもお寿司取るんだったら、高ちゃんがうにといくら食べて、あたしはまぐろとあなごを食べればいい。

人と一緒になるってそういうことだ。

あたしは、のろっと起きだすとまだ干してあった洗濯物を取り入れた。外は真っ暗でみんみん蝉が鳴いていた。

「みんみん蝉はみーんみーんって鳴くの。夏が終わるって証拠なんだよ。俺、それから西日がかげってコオロギが鳴きだすと、自然に生かされてるなぁって思う」

高ちゃんのせりふが耳にこだました。

あたしは、色んな人を自分の不満で傷つけてきたなぁって思った。

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