にがくてあまい午後

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にがくてあまい午後

答え

第二火曜日が、来た。

待ちに待った、小説サークルの例会だ。・・・あたしは短編を、昨夜のうちにいくつかブラッシュアップしてあった。朝、洗濯物が少し重たくって、自分が疲れてるのが分かったけれども、我慢してガーリックトーストとベーコンとトマトをお腹に詰め込んで、電車に乗った。

目的駅につくと、後ろから背を叩く人がいた。

「田万川さん」

「木村さん、ずいぶん早いじゃないの」

「えへへ、田万川さんこそ」

「ちょうどよかった。宝珠さんと、会計報告の打ち合わせってことで早く会館で待ち合わせしてるの。一緒に行きましょう」

最近、いや地震以来会員が二人へった。このままでは、皆でカンパしないと講師の先生にお礼が払えない。そのことを真面目な田万川さんは心配してるのだ。

宝珠さんは、お洒落な服装で会館の一階にいた。

「こんにちわ」

「こんにちわ。・・・あたし、先月休んだので会費まだでした。ここに六千円あります」

「よかったぁ」宝珠さんは胸をなでおろしたように言った。「今回で、広い部屋は終わりね。次回から節約するの。第七集会室」

「・・・狭い方が、皆の声が通ってなごやかでいいです」

「よね」

田万川さんは、原稿に目を通しながら言った。「木村さん、少しふっきれたんじゃない?」

「です」あたしは小さな声で言った。

「・・・昔はほんとに、気持ちまで引きこもってる感じだった」

「嬉しいです」

「お礼言えるようになったじゃないの、敦美ちゃん」宝珠さんも目を細めて言った。

「はい」

・・・その日はいい日だった。先生も、一週間前に送った本を読んでくれていたのだ。「ちゃんと形になってます」

「はい」

「ちょっとまだ表現が生だけどね。・・・そうだ、来週木村さんの出版祝いにどこかに飲みに行きましょう」

「すごい」

「どこが落ち着けるかな?この辺は笑笑があるけど」

「そこでいいです」

「・・・もっと、小さな店でこじゃれたところあるわよ」会長の澤田さんも言った。「駅の向こうで探してみましょ」

「・・・ありがとうございます」

あたしは有頂天になった。

正直、就労支援所や自助グループにはこういう居場所はないって思った。あたしがここでは年少のせいもあるのだろうけれど。

あたしは、たぶん文章を通せば言いたいことがすんなり言える。

のだ、とすとんと腑に落ちた。

だけど、夜遅く皆の原稿を抱えて帰ってきたら、くたびれ果てていることに気づいた。・・・夕食は、めずらしくスパゲッティを茹でてたらこスパにしたら、あたしはこたつの前で寝込んでしまった。

起きたら夜の一時だった。お風呂がいつの間にか(自分で無意識にスイッチを入れていたのだ)沸いていた。あたしはシャンプーして、湯船にはいってまたうつらうつらしそうになって、あわててベッドに入った。

次の日。

就労支援所は静かだった。チーフとスイーツ担当の佐々貴さんしかいなかった。

「ひさしぶりに、面談するわ木村さん」

「・・・はい・・・」

「半年ぶりだからね」チーフは機嫌よさそうだった。あたしはほっとした。新しく、パーテーションで区切った相談室はきれいだった。

「すごいでしょ」

「はい」

「・・・ここに絵を飾りたいんだなぁ。木村さん描ける?」

「あたしの絵でよければ」

「よかったぁ」チーフは嬉しそうに、プラスチックでできた観葉植物の隣に座った。「結婚したいんでしょ、木村さん」

「ええ」

「何が障害?」

あたしはめずらしく考えながら言った。「あたし自身です」

「?」

「いろいろ、男の人に難癖つけてきたけど」

「そうだったわねぇ」チーフは笑った。「あたしがほんとは、胸の中にいろいろため込んで、他人に吐き出せないのがいけないんです」

「木村さん、小さいとき『いい子』だったんじゃない?おとなしい」

「そんなことないですけど」あたしは少し小さな声になった。

「そういえばねぇ」

「?」

「近藤さん、辞めたでしょ」

「はい・・・」

「気になってた?」チーフはあたしの目を覗き込んだ。「いえ」

「そう?」

「ほんとは、やさしい人だったので気になってました。無理してるみたいで」あたしは素直に答えた。チーフは小声になって言った。

「アルコール依存症なのよ」

「・・・」

「一日でなるものじゃないしね。所長は飲むけど、コントロールできてるでしょ?近藤さん、今仕事手がつけられないみたいなの」

「そうでしたか・・・」

「じゃ」

あたしは相談室を出て、トイレにはいってドアをぱたんと閉めた。あんまりびっくりして、どういう顔していいかわからなかったから。

だけどひとつ答えは出た。

けいちゃん、酒びたりだったんだ。

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