にがくてあまい午後

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籠の鳥ーJAILBIRD-

第十九章


それから、「デイケア」に行くのが、亜美の日課になった。

何としても、あの淀んだ地下室のような部屋から、抜け出したかった。

亜美は、毎朝7時に起きると、THUBAKIのシャンプーで髪を洗い、イプサの石鹸で顔を洗った。そんな事を、毎日するのも初めてだった。・・・それから、朝食は食べずに家を飛び出した。

「まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ歩くのよ」

そう、自分に言い聞かせながらクリニックへの片道25分かかる道を歩いた。・・・早朝の道には、色んなものが落ちていることを亜美は知った。

「おはようございます」

と、通りがけの店開きをしているお豆腐屋さんに、挨拶をする。クリニックの、少し手前の自動販売機で、120円の缶コーヒーを飲む。

クリニックについて、2Fから3Fに通じる、「天国への階段」(亜美は、内心でそう呼んでいた)を息を切らせながら昇ると、そこには木崎がいた。深津サンがいた。中年の無表情な人達とも、徐々にうちとけてきた。・・・亜美は、「大貧民」を「負ける」ことを覚えた。

木崎は、亜美に異様なまでに関心を持っているように、今は思えた。・・・彼は、次々に「共依存」や「AC」のテキストブックを、昼休みに亜美に音読させた。亜美の吸収の早さに、木崎は驚いているようだった。

だが、午後はだめだった。

ACの本を、丸飲みこみするにつれて、亜美は尋常でない頭痛に見舞われ始めたのだ。・・・午後は、「処置室」のベッドで、寝ていなければ家に帰れなかった。そんな亜美を、深津サンはいつも心配そうに見守っていた。

それでも、真っ白い何の飾りもない処置室のベッドは、亜美にとって「天国」だった。

父親の、殴りつけるような罵詈雑言もない。母親の、厭味ったらしい涙もない。

ただ、無表情なメンバーの中に、亜美が気になる人が、一人だけいた。その女性は、亜美と同じ年頃だろうか・・・。いつも、濃い化粧をして、甘ったるい声を出す、どことなく父親のカラオケ仲間の小母さんに雰囲気の似た、ただもっと若い人だ・・・。

その人は、月曜日だけやってくると、いつも大人しく刺繍をして、「大貧民」には加わらずに返って行った。木崎は、この人が来ると、黙っていつも足元の方を見ていた。

「何だか変」と、亜美は思った。

あの女性、どこかで見たことある・・・。そうだ、父親と昔よく行っていたデパートの最上階で、いつもセールのすみっこで、冴えない服を、しかし嬉しそうに選んでいた人だ。

木崎は、亜美の不審な視線には構わず、廊下の椅子でいつも紫煙をたゆたせていた。そんな木崎と、議論をするのが、今は亜美の最上の楽しみになっていたので、亜美は何も言わなかった。

ある時、木崎は言った。「あの東さんと言う人は、ALAに通っているんですよ」

「・・・ALA?」

「そう。アルコール依存の家族を持つ人が行く自助グループです。・・・嵯峨さん、君のお祖父さんは、父方母方共に、アルコール依存だったのでしょう」

「はい。でも・・・」亜美は、顔をしかめた。

「父方の祖父は、小さい時亡くなりましたし・・・。母方の祖父に関しては、私、顔も知らないんです。田舎で、母が10才の時に亡くなったそうで」

「僕は、君にALAを薦めるけどね」木崎は、例の強い語調で言った。「ACの基本は、アルコール依存の家族を持つ事です」

その夜、亜美はベッドで考えていた。父方の祖父は、よく飲んだらしいが、さみしい亜美にX’masツリーの飾り付けをしてくれたり、ゴルフボールを使って遊んでくれた唯一の人だ。・・・母親が、嫌っている祖父は、どんな人だったのだろうか。何でも、田舎で学校の先生をしていて、敬虔なクリスチャンでもあったらしい。

「ワーカホリック」ふと、学んだ言葉の一語が浮かんだ。

私の父親は、ワーカホリックなのではないだろうか・・・?

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