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にがくてあまい午後

偶然

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「あの・・・」

「あ、木村敦美さん」新城さんは何の気なし、という感じで頭を下げた。「こんにちわ」

(気持ち悪いなぁ)

(これ、ストーカーかなぁ・・・)それでもあたしも一応頭を下げた。「こんにちわ」

「僕の本、届きました?」

「ええ」

「あなたの本も、届きましたよ」

(そりゃ、そうよ。五十冊献本分来ちゃったから、講座の人には全部配ったんだもん)あたしはちょっといらっとしながら答えた。「それで?」

「私、今日からここの管理人です」

ぶっ。

「それって・・・」

「女房とは、昨年の大みそかに別れたんです」

(あたしと芹田と同じじゃん)「はぁ・・・」

「定年を迎えまして、離婚されました」新城さんは腰を少し曲げた。(・・・熟年離婚かぁ)

「それで、マンションの管理人に」

「はいそうです。奇遇です」

「そうですね」

「できたら、いろいろ教えて頂けますか?」あたしはむっとして言った。「これから忙しいので・・・それに、教えてくださるのは管理人さんの仕事でしょう?」

「はい。私はいろいろなことを教えることができます」

あたしは頭がくらくらしてきた。・・・この人、小説講座にいるころから変人だと内々思ってたけど、あたしと同じく頭おかしいんじゃないだろうか・・・。

「ちょっとすみません」あたしは行こうとした。

「待ってください」新城さんはすがるように言った。「小説、どうでした?」

「うまかったですよ」

「そうですか」

「本当にうまかったです!」あたしは怒鳴った。「もういいですか?」

「いいです」新城さんはにっこりした。

「・・・」

「では、また」新城さんは、カーキの制服を着こんだまま去って行った。

(なるほど)

(前の管理人さん、ここのところ姿が見えなかった)

(けど)

ほんとに偶然なんだろうか。・・・あたしの住むこのマンションに来るなんて。

あたしは、箒で駐車場を掃きはじめた新城さんから逃げるように、エレベーターのボタンを押した。新城さんは箒を不器用に動かしている。

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