にがくてあまい午後

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にがくてあまい午後

雨が、来た。

夏中降ってなかった雨が、一度に来て関東はずぶ濡れだった。

あたしは、いつものようにお弁当箱にご飯とハンバーグと冷凍のポテトサラダとかぼちゃと枝豆のサラダを詰めた。傘をもって、ドアの外に出るとびくっとするほど大きな声であいさつされた。

「おはようございます」

「新城さん」

「私、本日は掃除機をかけております」

(見りゃわかるよ)「ご苦労様です」

「では」廊下をがーがーやっている新城さんを取り残して、あたしはいつものように郵便局へ行った。

「これ、宛先あとで書きますので、切手だけお願いします」

書籍小包には、「近藤啓介」とだけ表書きしてある。「二百九十円です」あたしは切手を受け取ると、外へ出て道路をぐるっと迂回して、就労支援所についた。

「おはよう」

「おっは」

「敦美ちゃん、最近頑張ってるじゃない」

「へへ」

「トートバッグ、もうすぐ完成ね。いくらにする?」

「えーと・・・千二百円」

「だめよこれは。よく出来てるもん。二千五百円くらいにしないと。安くすれば売れるってもんじゃないのよ」

あたしは、錨柄のバッグを改めてみた。厳しい元木さんのこの言葉は嬉しかった。

「苦手なまつり縫い、どうする?」

「教えてください」

「ここ縫って。向こう側をこうすくうの」

「やってみます」

あたしは、糸がなかなか針に通らないことに気づいた。「そろそろ、老眼鏡いるかもね」

「ええ」

「早い人は、四十過ぎると来るからね。PCのやり過ぎに気をつけてね」

また、お金いるなぁ。

でも、これが売れればちゃらになるかも知れない。

出来上がったトートバッグは、ちょっと自分で使いたいくらいだった。肩にかけてみてるあたしを見て、元木さんは言った。

「誰でもね」

「ええ」

「だんだん、自分で使いたくなるの。・・・売りたくなくなるの。でも、ここでは出来上がった瞬間、ここの商品だからね」

「はい」

・・・チーフも、今日は機嫌がよさそうだった。あたしは思い切って聞いた。「あのう」

「ん?敦美ちゃん」

「ちょっと、お願いがあります」あたしは半ば無理やり、チーフを相談室に押し込んだ。

「なんなの一体」

「これ」あたしは小包を取り出した。「近藤さんに送ってほしいんです」

「もう、あの人には関わってほしくないんだけどなぁ」チーフはぽつんと言った。

「あたし、近藤さん・・・いえ、他人に初めて褒められて嬉しかったです」

「・・・」

「りんご買ってったの、近藤さんでしょう?」

「今頃閉鎖病棟よ、たぶん」

「それは・・・」

「敦美ちゃん」チーフはあたしの目をまっすぐに見た。「もし近藤さんとお付き合いして、そのあとどうするの?一体」

「・・・」

「あたしからは出せないなぁ、これは」チーフは言った。「所長にお願いしてみて。じゃ」

ちょうど元木さんが部屋をノックした。「コーヒーいれました」

「ああ、いいのよ」チーフは立ち上がった。「今日はめずらしく、皆で昔みたいに休憩しましょ」

あたしは、帰り道雨に降られながら考えた。

(確かに)

(先のことどうする)

チーフの、コーヒーを皆と飲みながらなにげなく言った一言が、胸に焼き付いていた。

「恋愛ってね、競馬と同じよ」

「それどういう意味ですか」佳奈美ちゃんが質問した。

「全財産賭けたらいけないの。自分が生活できる分だけとっておかないと」

「むつかしいなぁ」

それきり皆は黙った。あたしは思った。(けいちゃんにすべてを賭けても、何も返ってこないかも知れない)

日本は溺れかけた人間に冷たい。

あたしはマンションに戻ると、きつねうどんをゆでながら考えた。

(高ちゃんには)

(未来がある・・・いろんな意味で)

(あの神木さんより、今グループでほんとの人望があるのは高ちゃんだ)

これは打算だ。

パパがベルを鳴らした。・・・あたしは、うどんをつゆに放り込んで、揚げとねぎとごまを浮かべるとドアを開けた。

「パパぁ」

「なんだ敦美」

「あのね・・・人生に打算ってよくないの」

「急にまた」パパは靴を脱ぎながら言った。「よくもわるくもない。大体、打算がなかったらここに帰れなくなるだろ」

「家・・・ていうかここのマンションに?」

「そう」パパは言った。「こういうこと今まで言わなかったけどな、敦美のために実家を売ったんだ」

「・・・」

「結婚できるさ、敦美」

それきりあたしが黙ってしまったので、二人でだまって甘いきつねうどんを啜った。お食後にピオーネを食べた。やっぱり甘かった。

台風は容赦なく窓ガラスに打ちつけていた。

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