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      籠の鳥ーJAILBIRD-

第二章 


診察室で、毎度お馴染みの、あまりぱっとしない禅問答を院長とした後、亜美と父親は薬局に向かった。ここの薬剤師のおじさんが、亜美は、珍しい事に気に行っていた。

「亜美さん、調子はどうですか。今度の眠剤は、少しふらつくことがあるかも知れませんよ」

この、穏やかな中年の薬剤師がいなかったら、とっくにこのクリニックは、いつものように父親にわがままを言って替えていただろうと、いつも亜美は思う。それにしても、この薬。毎食毎食後に出される、ビニール袋がぱんぱんになる程の薬。・・・でも、これを飲んでさえいれば、父親は安心するのだ。

薬局を出て、いつものように、通りがけのデパートのティールームで、亜美と父親は、蟹のトマトソースのスパゲッティーと、アールグレイのアイスティーと林檎のケーキを食べた。

家に着くと、亜美はすぐに外出着を、クローゼットのハンガーにかけて、水色のフリースに着替えた。それから、デスクに向かって、おもむろにPCを開いた。

この、PCと、時々CDで聴くロックだけが、亜美にとって外界へ通じる窓なのだ。

亜美は、PCを再起動させ、いつもの「お気に入り」を開いた。そこは、1年前までは、もっぱら少女漫画のサイトで埋められていた。が、今は違う。

「メンタルヘルス」。

息を弾ませて、亜美は画面を注視した。・・・そこには、3ヵ月前に見つけた、「仲間」がいるのだ。

「こんにちわ。今日も暑い日ですね。私は病院の帰りにかき氷を食べましたよ。皆さんはいかが?」いつもの、鬱のアン小母さんが語りかけている。

「私は元気です。今日、クリニックでどくとるマンボウをからかってやったわ。でも、薬は眠剤が、効き目の軽いのに変わっただけです」亜美は、意気込んで書き込みをした。

「あらまぁ。それはいけないわ。・・・亜美さんの話だと、なかなか優秀なドクターのようじゃないの。」

「笑わせないで。賞状がずらりと、壁に陳列してあるだけなのよ。本人だって、ずっとあそこで、ひたすら病気の人と会話しているんですもの。・・・引きこもりと、どこも変わらないわよ」

「亜美さんの毒舌にはかなわないわ。・・・でも、そうね、この病気のお医者さんって、どこか変わっているわね」

ああ、こうして好き勝手な事が言える場所が、与えられているなんて。神様なんて、信じていないけれど、もしいるなら、蟻が十匹だわ。・・・でも、私が本当に、今日待っているのは、この人じゃない。

「亜美さん、調子はどうですか?暑さにも荒らしにも負けずに行きましょう。」これは、パニック障害の白虎さんだ。

「ひろきさんは、どうしているかしら?」亜美は、どきどきしながら尋ねた。

「彼は、今TAXYの運転手をしているからね。・・・まだ、連絡は入らないよ」

そうか。そうか。ひろきさんは、とうとう始めたのか、仕事を。

「でも、本当にアルコールが、体から抜けるには3ヶ月かかると言うよ。・・・彼は、まだ断酒2ヶ月目だ・・・」
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