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にがくてあまい午後

決意

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次の日。

あたしがぼけっと窓の外を見やると、新城さんが普通の服装で出勤するところだった。・・・今日はクリニックに行く日だ。

外に出ると、かなり寒かった。秋と冬が一気に来た感じだ。

「おはようございます」

「おはようございます」新城さんは、ちょっと照れた感じであいさつした。

「小説、進みましたか?」

「いえ、なかなか。一度別れたものがよりを戻すのはむつかしい設定です」

「そうですよね」あたしはつぶやいた。「どうかしましたか」

「お世話になった人が、入院しちゃったんです」

「それはいけませんね」

「はい」あたしは自転車置き場に行こうとした。

「木村さんはなにか書いていますか」

「・・・普通のことを毎日」

「普通のこと?」

「毎日ご飯作って、洗濯して恋愛する、そんな話です」

「聞いてもいいですか」

「はい」

「どういう恋愛ですか」

(もうどうでもいいからこの人に相談してみてもいいだろう)と、あたしは返事した。「人の緩衝剤だった人が、アルコール依存で入院しちゃう話です」

だんだん話が飲みこめてきた新城さんは言った。「その方のメール知らないんですか?」

「それに近いものは知っていますが」

「連絡された方がいいですよ」

「・・・」

「わたしは」新城さんは言った。「いつまでも、言えませんでした。妻にもう一度会わせてくれって」

「子どもさんですか?」

「いえ、犬です」

「・・・」

「そうこうしているうちに」新城さんは言った。「亡くなったと知らせがありました」

「・・・」

「生きているうちに一度会いたかったです。では」新城さんは箒を取った。

新城さんの言うとおりだ。

今日は一度しかない。・・・人の命も一度きりだ。

あたしは、部屋に駆け戻るとフェイスブックに書き込みをした。「おはようございます。近藤さんが入院された事情、チーフから聞きました。近藤さんはあたし自身のことを初めて大事にしてくれた人です」

あたしはちょっとためらって更に続けた。

「あたしも近藤さんのこと大事にしたいです」

「退院したら是非メッセージください。待ってます」

あたしはメッセージを送信して少しほっとした。・・・返事は来ないかも知れない。だけどやれることはやったのだ。

あたしは、上着に腕を通すとドアを開けた。空気はほんのり冷えていた。

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