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にがくてあまい午後

気の毒

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どんどん冬はきつくなっていた。朝、なかなかお布団から出られない日が続いた。

ある日、PCを開くと新しいご紹介が入っていた。

「志岐加澄と申します。お付き合いを申し込みたく存じます」

慌てて、確認した志岐さんの写真は、自分で描いた油絵をバックにしたものだった。

志岐さんのメールは真面目で感じがよかった。

日曜日。

だけど、待ち合わせの駅に来た志岐さんは、写真よりずっと老けて小さく見えた。あたしたちは近くの喫茶店に入った。

志岐さんの話は、大正生まれのご両親のことが多かった。

「父はわがままで」

「合わせている母が不憫で」

「よく、もう足が悪いので一緒に車でスーパーに行くんです」

「補聴器が使いづらいらしく・・・僕、新しいのを研究して作ろうかと思って。昔、ラジオの分解とか好きだったので」

退屈で眠り込みそうになったあたしに、志岐さんは言った。「木村さんは、お一人暮らしですか?」

「家が嫌いだったので出ちゃいました」あたしは正直に答えた。

志岐さんは、半分不思議そうに、半分ため息をつくように言った。「僕は何度か独立を試みましたが、成功しませんでした」

モンブランと紅茶を飲み終わると、志岐さんは自分のコーヒーの分も合わせて支払ってくれた。

「ありがとうございます」

「また、美術館にでも行きませんか」

「いいですね」

遠ざかる志岐さんの後姿を見て、あたしはため息が出た。

実際。

あたしも志岐さんよりそんなに先を歩いてる訳でもない。

だけど。

お母さんのことばっかり考えて、これから志岐さんはどうするんだろうか。

(他人ごとだけど)

ふと、母親のいつも憎々しげに、小さかったあたしを睨んでいる視線が思い出された。

(お兄ちゃんなんか誘惑して)

(小学生の癖に)

母親の視線はそういっていた。あたしはため息をついて、コートの中にぐるぐるに巻いたマフラーを襟の中に押し込んだ。

(お母さんは)

(あたしのことを憎んでた)

(たぶん、あたしにむりやりしたお兄ちゃん以上に)

それはあたしにとってつらいことだった。・・・志岐さんが羨ましかった。(心がほどけてくるのはつらいことだ)

その晩、あたしはめずらしく檜山さんに電話してた。

「それはさ」檜山さんは言った。「よっぽどきつい、その家を差配できる女性でないと無理だよ。敦美ちゃん、断った方がいい」

「うん」

「真面目な人なのはわかるけどさ、ストーカーになったりすると困るだろ」

「そうですね」

「それはそうと十五日、空いてるかな?」

あたしは手帳をめくって言った。「空いてます」

「食べ歩きしようね、いろいろ」

「はい」

あたしは電話を切って思った。志岐さんは何かの生贄になってる人なのかも知れない。

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続き気になります!頑張ってください

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コメント嬉しかったです。ありがとうございます。

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