にがくてあまい午後

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籠の鳥ーJAILBIRD-

第二十六章


その晩、亜美は夢を見た。

例の、重苦しい夢だ。

亜美は、12人の人と十畳程度の部屋に押し込められている。・・・自由なのは、狭い食堂に出て、3食を取る時間だけだ。

亜美以外の誰も、口が利けない。耳も聞こえはするものの、言葉と言うものを解さない。

「言葉」というものが存在しない世界に、亜美はもう8ヶ月間閉じ込められている。

誰もが、亜美を蹴飛ばす。中には、おやつのカップ焼きそばを亜美の頭に、面白がってぶっかけたりするものもいる。

助けは、来ない。

どこからも、来ない。

亜美は、ただ恐怖と諦めの中に、その部屋の片隅でうずくまっている。

真っ暗な部屋で、息苦しさから亜美は、目を覚ました。それから、大きく深呼吸をした。

(あれは夢じゃない)

(現実だ・・・。私は、8ヶ月間”あそこ”にいたのだ)

そう。

亜美が、大学2年の春。・・・手酷い失恋をした亜美は、一人ぼっちの下宿から家にふらふらと帰った。玄関口で、倒れた亜美を見て、母親は弟のゆうに出す、おやつのお盆を持ったまま、ふとかぶりを振っただけで、亜美を助け起こそうともせずに、通り過ぎた。

何とか立ちあがった亜美は、母方の祖母の部屋に向かった。

亜美に、何の知らせもなく、そこには祖母の遺影と線香だけがあった。

祖母の形見の箪笥を、ひっかきまわすと、案の定睡眠薬が出てきた。一気に、口に頬張ろうとすると、後ろから母親の冷たい声が響いた。

「亜美ちゃん、今時そんなもの一瓶では死ねないのよ。みっともないこと」

後から入って来た父親は、気がつくと亜美を強かに殴りつけた。

「馬鹿が」

「馬鹿が」

「お前の、根性が甘いんだ。こういう娘は、殴らなければ根性がねじ曲がる。」

母親の、笑い声が部屋中に響いていた。

「お前は、知り合いの病院にやる。そこで、看護師見習いでもして、その腐った根性を叩き直すんだ」

亜美は、数日後、父の知り合いの経営する、地方の外科病棟の看護師見習いにさせられた。そこは、家にも増した地獄だった。他の、看護師に苛めぬかれた亜美は、人格崩壊寸前に達した。

慌てた両親は、今度は、亜美をその程近くの、母親の親友の家に預けた。記憶がぼやけていて、よくは覚えていないが、両親がへつらうように土下座をしていたこと。それから、暗い知らない家の玄関を、逃げるように出て行ったことを記憶している。

・・・困り果てた小母さんは、親切にも、精神科医である息子の嫁を呼んでくれた。次の朝、小奇麗な病院で診察を受けたことまでは覚えている・・・

しかし。

何故か、亜美が送られたのはそこではなく、遠い僻地の、重度の知的障害者が集まる病院だったのだ。

そこは、『地獄』という言葉さえ、相応しくないところだった。

両親はもとより、弟のゆうも見舞には来なかった。

強制入院させられて8ヶ月目。・・・病院の、盆踊りの日に、見舞いに来てくれた小母さんが、亜美に浴衣を着せつけをしようとして、部屋に入り。仰天して、親戚にそれを知らせたのだ。

「周囲の目」が、何よりも怖い両親は、この噂に亜美の転院手続きをしぶしぶ取った。・・・亜美は、3日後、「日本一」と言われる精神病院の個室にいた。隣には、今は世界的有名人となった画家の患者が入院していた。

そこは、楽園だった。亜美は、よく他の患者とセブンブリッジと大貧民をした。開放病棟だったので、映画にも宝塚にも出かけられた。もちろん食事にも。

そこには、弟のゆうもたまに顔を出していた。

だが。

1年後、亜美はリストカットをして、またしても転院を余儀なくされた。

そこは、可も無く不可も無い、普通の精神病院だった。

朝、6人部屋で起きて顔を洗う。不味い朝食の後、ラジオ体操をする。各自が各自の洗濯をすませると、昼食。・・・それから、夕食。

(まるで、作業のない刑務所みたいだわ)

亜美は、3ヶ月後そこを出たが、もう、亜美はもとの亜美ではなかった。・・・家には帰れたが、ゆうはいつの間にか家を出ていた。両親の亜美を見る眼は、醜い蛙を見るように冷たかった。

それから。

亜美の、父の親友の小父さんと、中学時代の親友と、各々月に1回食事をし、あとは毎週「どくとるマンボウ」の元に通う生活が始まったのだ・・・。

いつしか、亜美は口を利かなくなっていた。
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