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にがくてあまい午後

再会

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朝。

あたしは、めずらしく早く起きて、マンションの通用口を出ようとしていた。ふと、ごみ置き場を見ると、懐かしいカーキの制服の人影があった。

「新城さん」

「おはようございます」新城さんはぺこっと帽子を取って頭を下げた。「もう、管理人さん辞めちゃったんだと思ってました。芥川賞受賞、おめでとうございます」

「いえいえ」

「・・・あたし、新聞取ってないので、昨日小説の会で知りました」

「賞金で、海外旅行行ってたんですよ。また、お世話になります」

「こちらこそ」

新城さんは箒を持て余すようにして、言った。「木村さんの姿が見えないと僕もさみしい」

あたしは泣きたくなった。涙を隠すように、顔を少し斜めにして言った。「コンビニ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

その晩。

あたしは、今度の課題である垣沼さんの写真展で朗読する短編を推敲していた。・・・その写真には、酉の市の射的に向かう、楽しそうな父娘の姿が写っていた。

あたしは思った。

(こんな思い出は、あたしにはない)

(でも、今のパパとあたしはこれだ)

(一緒に、同じ目標に向かって毎日、撃ってる)

それは、何に対して戦っているんだろう。

パパが昔果たせなかった、小説家になると言う夢のためなのか。

それとも、毎日毎日を障害を持つ娘と、もう年のいった父とで暮らしてゆくと言うつらさのためなのか。

死へ向かってゆく怖さを乗り越えるためなのか。

生きることは撃つことだ。

白須さんへ打ったメールは返ってこなかった。

「さよなら」

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