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その後の短編

お見合い

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早春のとある日、同じ小説のサークルの小母さんに、恵まれない子どもたちのやるお芝居に誘われた。お芝居は、宮沢賢治の童話をベースにしたものだった。
 芝居が跳ねたあと、小母さんに大戸屋に誘われた。鶏の黒酢あん定食を食べながら、彼女は急に言った。
「由貴ちゃん、もうそろそろ三十でしょう?」
「はい」
「あのね」
小母さんは身を乗り出していった。
「とっても不利なの」
「何がですか?」
いらいらしたように小母さんは叫んだ。
「結婚よ。いい人からどんどん売れてゆくのよ。由貴ちゃんは、ぼんやりしすぎ」
「はぁ」
「あのね。はぁ、って言うのやめなさい。ええ、って言いなさい。それから、服もメイクもチェリーピンクにして、髪はくるくる巻いて馬鹿みたいに揺らしなさい。そうすればまだ間に合うわ」
「……ええ」
「世の中はね、お金なの」
「それはそうだと思います」
「自分で稼ぐこと言ってるんじゃないのよお。私は、国家公務員の旦那と結婚して、必死に内職したわよ。だから今こういう宝石も身に着けられるの」
「はぁ……いえ、ええ」
「頑張んないと、あなたの小説なんて売れないんだからね。除名しろ、っていう人も沢山いるのを、私が庇ってあげてるの。わかる?」
あたしはちょっとぞおっとしながら神妙に言った。
「よく、わかります」
小母さんは、小豆のパフェをほうばりながら言った。
「いいお見合い写真撮って、頑張るのよ。あなたに私は期待しているの」

 こうして、あたしのお見合いは始まった。

 一番目に会った人は、背の高いイケメンの人だった。待ち合わせは帝国ホテルのロビーだった。
「はじめまして」
「はじめまして」
 あたしは、かなり緊張しながらつぶやいた。服は、コンサバにまとめてきたし、なけなしのお小遣いで買ったアイロンで髪はゆる巻きにしてある。口紅も桜色である。
 しかし、イケメンはそういうことには一瞥もくれてない感じだった。
「ここのティールームは混んでいますね。近くの別のホテルの店に移動しましょう」
 あたしとイケメンは、桜の咲く街路をとことこ歩いた。十五分ほどで、ちょっと古いけど格調のある感じのホテルに辿り着いた。イケメンは最上階を目指した。
 目の玉が飛び出るほど高い紅茶とケーキを注文した後、イケメンはいきなり言った。
「僕は自分が嫌いなんです。だから子供は欲しくありません」
「ええ」
「ご了承頂けましたか」
あたしはやばい、と思った。ここははぁ、と言うべきだった。イケメンは構わず続けた。
「だから妻には、その代り創作活動をすることを認めます」
「……ええ」
「由貴さんは素直でとてもいい感じ」
イケメンはにっこりして言った。
「これから、ブルガリア料理を食べに行きませんか」
「ええ」
(あたしは、他に返事ができないんだろうか)
 しかし、連れて行かれた銀座の裏通りのブルガリア料理はおいしかった。少し、ワインで酔った感じのイケメンはしかし、しっかりした口調で言った。
「僕は県庁に勤めています。ご存知ですよね?」
「ええ」
「はっきり言って、今各県に美術館及び文学館があるのは予算の無駄なんです」
「……」
「今、国の予算には余裕がありません。中央にだけ、大きな芸術館を作って、あとは全部廃止すべきです」
「あの」
「はい?」
あたしはおずおずと言った。
「だけど、そうするとそこで活動できなくなります」
イケメンはむっとしたように言った。
「芸術は本来、孤独に耐えつつ一人で創作するものだと思いますがね」
「……」
あたしの、ちょっと憮然とした表情をとりなすようにイケメンは言った。
「ここのジャム、美味しいですよ。お土産にどうぞ」

 有楽町で別れた後、「ありがとうございます」と言うメールを一応送った。返信はなかった。

 二番目に会った人は。
 井の頭公園の近くに住んでいて、小さな内装屋さんをしていると言う。あたしたちは、一緒に満寿屋の鰻を食べた。
「おいしいですねぇ」
「ええ」
「由貴さんは、ちょっと体力に欠けるみたいですね」
「はい、いつも家でPCに向かっているので」
「それはよくないですよ」
内装屋さんは心配そうに言った。
「僕がいろいろ連れまわしてあげます。リチャ―ド・クレイダーマンはお好きですか?」
「ええまぁ」
「今度、一緒に行きましょう」
背の小さい内装屋さんは、嬉しそうに帰って行った。

 それから、内装屋さんはしげしげ浦和に来るようになった。問題は。だんだん、彼が勝手に予定を入れ始めたことだ。
「今度の八日に、ジブリの森の予約を取りました」
「その日は……」
「え?行けないんですか?」
「小説講座の日なんです」
内装屋さんはかなり怒ったように言った。
「あなたの気持ちはよくわかりました」
電話はがちゃんと切れた。あたしは、内心ほっとしていた。しかし。一週間後、再び問題は起きた。
「あのお」
「はい?」
「明日、会えませんか?」
あたしはさすがにびっくりしてメールを返した。
「女友達と渋谷に行く予定なんです」
「そうですか」
雪だるまマークとぷんぷん絵文字のついた返信が帰って来た。
(まずい)
(これ、ストーカーじゃない)
あたしは、考えた末三日後にメールを打った。
「父が倒れました。当分お会いできません。さようなら」
そして、間髪を入れず着信拒否にした。

 三番目に会った人は。
ムラカミ・ハルキさんという人だった。ハルキさんは、おかめ納豆の会社に勤めていると言う。
晴れた日曜日、ハルキさんはアーガイルのセーターにリュックサックをしょって、待ち合わせ時間に一時間半遅れてきた。
「どうも」
「どうも、ムラカミです」
ハルキさんはごめんと言わなかった。それからあたしたちは、駅ビルで一番安そうな喫茶店に入った。
「僕、ウインナコーヒー」
「わたしブレンド」
ハルキさんは、ブレンド代を払うのを一瞬躊躇っていたがあたしは無視した。
「僕、小説書いてる村上春樹じゃないですから」
「私は書きますけど……」
「どんな小説ですか?」
「二十代の女の子の恋愛小説です」
ふうん、と頷いてハルキさんは言った。
「僕、最近社交ダンスを始めました」
「そうですか」
「来年には、この駅前の不動産の会社に転職するつもりです」
「はい」
「おかめ納豆は将来性がありません」
「そうでしょうか?」
「あなた、納豆好きですか?」
「いえ」
「僕もです」
そこで話は途切れた。あたしたちは黙ってコーヒーを飲み干した。外は、曇ってあやしげな天気になっていた。
ハルキさんはぽつんと言った。
「小説、僕も書きたいです」
「それしか趣味がないので」
ハルキさんは、身を乗り出して言った。
「お料理はきらいですか?」
「いえ好きです」
ハルキさんは半ば夢見るように言った。
「僕は、和幸のとんかつ定食のシジミ汁が大好きです。ああいうお味噌汁を作る人と結婚したいです」
あたしは言った。
「そうですか」
「でも僕、村上春樹みたいにずうずうしくないですよ」
あたしは、はははと笑った。ハルキさんもハハハと笑った。
外は暗くなってきていた。
「もう、六時ですけどお食事して帰られますか?」
「いえ、実家で食べます」
  ハルキさんは、よっこらしょと腰を持ち上げた。それから、勝手にお勘定を払って喫茶店から出て行った。
 あたしは生憎、折り畳み傘を携帯するのを忘れていた。駅ビルで、一番安い色つきのビニール傘を買って外に出た。もう豪雨だった。歩いている内にハイヒールが水たまりに水没した。新調したバッグに雨の染みがついた。
  ほうほうの体で、家に帰りつくとメールが鳴った。
「とっても楽しかったです!またお会いしましょう!」
あたしは、そのメールを完全無視すると、okamenattouなんとかかんとかと云うメルアドを、連絡先から消去した。

 四番目に会った人は。
ずんぐりむっくりした、警察に勤めている人だった。
「僕は茨城から来ました」
「遠いですねぇ……」
「いえ」
「僕、普段の日曜日は水族館でイルカの生態を、子供たちに説明したりするアルバイトをしています」
「いいですね」
あたしはお世辞でなく言った。
「僕は子どもっぽいです。よく言われます。でも」
「でも?」
「笑顔の絶えない家庭を築きたいです」
あたしは直感的に思った。
(これはいいひとだ)
だけど。

  その晩、母親にあたしは電話していた。
「やめなさいその人」
「何でよ」
「茨城って言ったって、北の方でしょう?福島との県境でしょう?あぶないったらありゃしない」
「今どこも同じよ」
「まさか部屋に入れたんじゃないでしょうだいたいね」
母親は金切り声になった。
「セシウムが残留してるかも知れないわ。お母さんが行くとき怖いじゃないの」
「あのねぇ」
「だいたい、あんたが嫁に行ったらお父さんの世話は誰がするの?」
「知らないわよ」
「あんたのこと、なんのために小説なんか書かせて、ぶらぶらさせてると思っているの?」
「介護のため?」
「なんて言い方するのよあんたは!遅い子だと思って、大事に大事にしてきたのがわからないの?だいたいね……」
あたしは、電話をがちゃんと切った。
(お母さんはまるで宇宙人だ)
(自分の幸福しか考えてない)
あたしは、無意識に茨城の人のフェイスブックを検索していた。
(あの人に相談してみよう)
しかし、あたしが見つけたのは愕然とする内容だった。確かに、同じあの顔の人が別の女性と笑っている写真。それもいろんな女性と。
 そしてそれは明らかに水商売の女性ばかりだった。

 あたしは結局。
もう、見合いをやめた。それで、小説のサークルにも居づらくなった。と、言うよりも最初から宝石小母さんはあたしの事は追い出す計画だったらしい。
 あたしは今、小さな会社でデータ入力をしている。月給は月十六万だ。母からの電話はかかって来なくなった。時々、疲れたときはモスバーガーでテリヤキバーガーを夕食に食べている。
 秋になってふと、スーパーでおかめ納豆を手に取ったあたしは、武蔵浦和の駅前の不動産屋さんをそっと外からガラス越しに覗いてみた。
 でもハルキさんの姿はどこにもなかった。
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