にがくてあまい午後

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籠の鳥ーJAILBIRD-

第三章


その夜、亜美は眠剤以外に、白い錠剤がひとつ増えている事を発見した。

「これ、何だったかしら?」

「先生が、説明していただろう。お前、聞いていなかったのか。新しい、アメリカから来た抗鬱剤だよ」

それ以上、追求せず、亜美は夕食後の薬を飲んだ。・・・常に、どくとるマンボウの手によって、微調整される薬。十数種類以上ある、抗不安薬、抗鬱剤・・・いちいち、全部をインターネットで調べても、何がどこにどう効いているのかなんてさっぱり分からない。調べるだけ、時間の無駄よ。

一度だけ、睡眠導入剤で、夢遊病状態になり、母親のベッドにインク瓶をぶちまけて、慌ててそれをネットで検索し、同じ症状が多いと言う情報を引き出して、嫌がるドクターに、無理に変えてもらった事はある。・・・珍しく、母親が亜美に脅えたからだ。父親は愛妻家だった。・・・そして、それを亜美はいつも不快に思っていた。

次の日、そしてその次の日、時間はいつものように過ぎた。趣味に没頭している母親。家に、帰ろうとしない父親。家政婦のサイトウさんを、亜美は、はっきり言って嫌っていたが、時々は、両親よりはましだと、内心認めざるを得なかった。

「サイトウさんは、どうして私の事嫌わないの?」

「亜美さんは、ただ笑っていればよろしいんですのよ」

亜美は、内心舌打ちしたが、それでもこの女性を憎む気持ちにはなれなかった。引きこもりの家では、親と子の間に、長い冬に降る雪のように、憎悪という感情が降り積もってゆく。その点、「この人は、この家にとって大事な”他人”だ」という事実くらいは、亜美はわきまえていた。他人は、時に雪かきをしてくれる。

「どうして、サイトウさんはこの家にいるの」

「亜美さんのためですよ。今までの家政婦さんだって、全部そうですよ」

そう言って、サイトウさんは、米とぎを続けた。米を洗って、水を切り、ひたひたの水でまた炊く。そんなことすらも、亜美はした事がなかった。

いや、ある。一人暮らしをしていた時だ。まだ、20才の時。手痛い失恋をして、実家に帰り、祖母の睡眠薬を一瓶飲もうとした時。・・・あの時、亜美の人生は狂った。

亜美はかぶりを振った。思い出したくない。思い出したくない。

「もう、お風呂が沸いていますよ」

またか、と亜美はぼんやり思った。このサイトウさんといい、母親といい、昼間から風呂を沸かしてしまう。それは、亜美の寝る時間が、極めて不規則なせいもあるのだったが、時々朝食が用意されていない場合すらもあった。好きな時に風呂に入り、起きた時、そこにある食事を食べる生活には、もう慣れっこになっていたが・・・。

その晩も、亜美はPCに向かった。

「やぁ、ひろきさん」

気さくな百虎さんが、話しかけている。「どこで客待ちしてるの?」

「帝国ホテルの前だよ」

耐えられなくなって、亜美は割り込んだ。「そこで、お客が拾えなかったら、それは帝国ホテルで新聞沙汰が起きた時だわ」

陽気な、ひろきさんが答える。「新聞沙汰が起きたって、拾えるさ。亜美ちゃん、元気かい?」

「元気よ。」

「なら、よかった」

ぼんやりと、亜美は数人のTAXYの運転手の顔を思い出していた。・・・ひろきさんは、もっと若い筈だ。・・・それにしても、身一つで稼ぐとは、どれ程のことなのだろう。自分にとって、異星人のような人だ。それくらいは、分かる。

「気をつけてね」

「気をつけるよ」

いつの間にか、外は暗かった。亜美は、暖かい体をベッドに横たえた。まだ、眠くはない。
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