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籠の鳥ーJAILBIRD-

第三十七章

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それから、何度か駆け引きのような挨拶を、メールで繰り返している内に、亜美は赤いストールの本名を掴んだ。

「俺、ホタルって言うの。覚えてる?」

「ううん。本名は?」

「北条瑛一」彼はそう言うと、携帯の向こうでくるっと宙返りしたように思えた。「君の本名、聞いていい?」

「嵯峨亜美」

「いい、名前だ」彼は、またくるっとバク転したように言った。「今度、会わない?」

「いいけど・・・」

「明日、どう?」

「明日は無理」

「なら、いつがいいの?」

亜美は、忙しくカレンダーに目を走らせて言った。「12月5日なら。H駅の、駅ビルで」

「分かった。2時にね」

あはは、と笑い声を残したように、メールは切れた。

亜美は、クローゼットに駆け寄って服を探した。上等な外出着は、もうほとんど桂さんを通じて古着屋に売ってしまっていた。(買わなきゃ・・・)

亜美はその晩、迷ったあげく、ショッピングモールの3Fで、黒とグレイの、オフタートルのワンピースを6000円出して、買った。

12月5日。

赤いストール、いや、瑛一は例によって、少しふらふらした足取りで、H駅ビルの正面口の、亜美の前に姿を現した。手首には、20万はしそうなブルガリの腕時計が光っていた。

「こんにちわ」

「こんにちわ。早いね・・・。」瑛一は、思ったより子どもっぽい声音の、しかし大人びた口調で言った。「どこで、お茶する?」

「2Fの仏風カフェに行きたいな・・・」

「行くしかないね」

亜美と瑛一は、並んで窓際の席に腰を降ろした。いやでも、亜美の眼は手首に惹きつけられた。

「あ、これね」瑛一は、軽く言った。「俺の、商売道具」

「ごめんなさい」

「あはは」瑛一は、また宙返りするように言った。「いいんだよ。・・・おたくだって、なかなかのしてる。・・・ベーでしょう?」

「うん」

「俺さ、こないださ、姫系の女の子ひっかけたの。でも、アニエス・ベーってフランス語、読めないんだ」屈託ない調子で、瑛一は言った。

姫系が何だかは、よく分からなかったが、亜美は調子を合わせてにっこりした。

「ここの雑貨、私好き」

「俺もだよ。・・・あの名刺入れ、どうかな?どう思う?」

瑛一は、すぐ傍にある名刺入れを指差した。表にパリの地図が、印刷されているものだ。

「いいと、思うけど・・・」

「じゃ、それ買う」瑛一は、これまた高価そうな財布から4000円を抜きだした。

「ありがとうございます」店員は言った。

「ありがとう。・・・おたくのおかげで、いい買い物出来たよ」

それから、暫く、亜美と瑛一はウインドーショッピングをしながら雑談した。

「映画も音楽も、読書も好きさ」

「私、『きみにしか聞こえない』って言う、映画が好きで・・・」

「知ってるよ」瑛一は、言った。「あれ、舞台、K市だろ?」

「うん」

「俺、どこの時計屋に勤めてると思う?」

「?」

「K市」瑛一は、携帯を取り出した。「昨日、店長と撮った写真」そこには、今とは全く別の笑顔の青年が映っていた。「俺さ、これ、接客用の顔」

「ふうん・・・」

「今と、違うだろ?」

「違う」

「あんた、気に入ったよ・・・」瑛一は、急に顔を近づけて言った。「また、会おう」

「うん」

瑛一は、ふっと笑顔を見せると、それきり黙って歩いた。・・・亜美も、黙って歩いた。

「さよなら」

「またね」

瑛一と別れた亜美は、ふいに思いついて、5Fの本屋で、「GIRL’S PLAY BOOK」を思い切って買った。

その晩、またメールが来ていた。「今度、来週会おう」亜美はなんとなく寝つかれなかった。
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